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2012年5月15日 (火)

藤沼康樹編「新・総合診療医学  家庭医療学編」カイ書林2012 ・・・40ページ「患者中心の医療の方法」藤沼康樹・・・「健康の社会的決定要因」=社会的剥奪要因=社会的健康創造要因

いま、その本が手元にないので正確なことが言えないのだが、カナダの西オンタリオ大学のモイラ・スチュアートMoira Stewartという女性が編集した「 Patient centered medicine(患者中心の医療)」という本に夢中になって持ち歩き続け、ついに本がほどけてボロボロになったので、出入りの業者さんに頼んで一冊だけの再製本までしてもらったことがある。あまり勉強しないので、そんなことをした本は他にはないのである。

(札幌医大の山本和利という人が日本語訳を出しているが、英語で読んだ方がよい。)

数年前まで地元の大学の総合診療部から頼まれて医学部学生の半日の学外実習を6年間くらい続けて引き受けていた。

そのときは、短い時間の中でも「患者中心の医療」の考え方を伝えようと努めたのでいつもそれを手元に置いていた。

教授が変わったことを契機に学外実習を頼まれなくなって、最近は開くこともなくなっていたのだが、今日、上記の新刊本を読むと、編者の藤沼康樹氏が「患者中心の医療」について書いていることが実に新鮮だった。

あんなに時間をかけて読んだのに、自分はいったい何を理解していたのか、という気持ちもした。

患者中心の医療は六つの構成要素(コンポーネント)によって構造化されている。

すなわち

1 医学的に診断される「疾患」と、患者の「病い体験」の双方を明らかにする。

2 患者を全人的にとらえる。

3 共通の基盤を見つける(作る)。

4 予防と健康増進を診療と同時に行う。

5 患者ー医師関係を強化する。

6 現実的になる。

である。

学生に教えようとして、実はこの六つを同列に並べることは難しくて、結局、1の「疾患と病い体験の双方を捉える」ことに集中していた。うまくいくと、2 「患者を全人的にとらえる」について触れることもできた。

実は、結局この二つが重要だと自分でも思っていた。4の健康増進など、なぜわざわざ言うのだろう、という気がしていたくらいである。

しかし藤沼氏は、「患者中心の医療」のコアは3の「共通基盤の形成」にあるという。それが全体の目標であり、そのために、1,2、4、5、6があるのだというのである。

これは、驚きだった。これまではそういう構造を考えてもみなかったのだ。

まさにその通りだ。民医連が、「医療は患者と医療従事者の共同の営み」と定義することとぴったり重なるのもこの部分であり、この項目をコアにすることは当然なのである。

4の「健康増進」についても、患者が持っている健康的な側面と、それを支えているいわば「健康因」(「病因」に対する言葉)を見つけて強化することが、たとえば治らない病気で病気と共存するしかない患者をどれだけ健康にするか、と述べている。全く退屈ではないコンポーネントだったのである。

というわけで、日本語のこの新しい本も只者ではないので、会う人ごとに勧めようと思っている次第である。

*その後、以下のようなことに気付いた。

人間は理論上の自然状態でも(「=なにがなくても」)健康を失うように方向づけられている存在かもしれない。

さらに実際の環境の中ではさまざまな健康の剥奪要因にさらされて確実に健康を失う。

しかし、それと同時に、反対方向に健康を創造する能力を持っているので、二つの力が平衡して何とか日々の生存を維持し、さらには将来に向かって前進している。

民医連の方針になっている「健康権」も「健康の剥奪要因」にさらされないことを保障されるという防御の権利ではなく、健康を創造する要因を獲得するという能動的権利でなくてはならない

そのとき、WHOが提唱している「健康の社会的決定要因に基づく行動」は、それが論じている「社会的」という次元において、剥奪要因を見極めることそのものが創造要因を発見することだと鮮やかに表現して見せたので衝撃的だったのだ。

子ども時代の援助不足や貧困や失業などの剥奪要因が奪うことの本質は、人間の「自律・社会参加・社会からの支援」であり、それこそが健康の創造要因=「健康因」だった

すなわち、健康の社会的剥奪要因が剥奪しているものこそ、健康創造要因だったのである。・・・まぁ至極当然のことなのではあるが、改めて気づくと驚くのである。

アマルティア・センはそれを「ケイパビリティ」と表現した。

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