雑誌「」2012年4月号
社会保障の財源論と、アメリカがTPPにのめりこむ動機を知ろうと思って一応通読しようとしたのだが、この雑誌は本当に読みにくい。同じ月刊誌の「世界」や「現代思想」と比べればそれは際立つだろう。
商業誌と比べられても困るといわれるかもしれないが。
若いころは自分の知識が足りないからだろうと諦めていた。しかし、この年になってもこうも読みにくく感じるのはのは、むしろ作り手の方に読ませようという努力が足りないのだと思う。
○最も期待した森原公敏「東アジアの地域共同の発展とオバマ新戦略」は、長くて主張が捉えにくい。これを改善するには要旨を冒頭に入れる必要がある。そうでないと、格別訴えたいことは何もないのにアメリカの外交について長時間勉強したから書きました、というものではないかと疑われてしまうよ。
経済同友会終身幹事の品川正次さんはTPPについて民医連理事会で講演して、何より台頭する中国を押さえようとするアメリカの戦略だと強調していたのだが、森原さんはそれは少し違うようだと言いたいのだと思う。
アメリカは中国封じ込めなど狙ってはいない。むしろアメリカはアジアから締め出されたくないと必死に考え、アジアに何層にも構築された地域協力機構に接近を図っている。TPPはその決め手になるものだ。そのとき、主導権はむしろアジア諸国にあり、彼らは中国、アメリカ双方を受け入れて、さら協力と協同を深める余裕を見せている。
しかし、こう言ってしまうと、日本の国民の大多数が反対しているTPPの売国性、亡国性の認識がすっと薄れてしまう。それは当面の運動にはいい影響を与えない。
上手く読みとれた自信がないので、この要約は間違っているかもしれない。ただ、間違っていたとしても、複雑なものを複雑なまま認識することは大事で、当面の運動にとって都合が悪い側面もしっかり知っておいた方がよいのだろう。
○小池 晃「社会保障充実・財政危機打開へ」。これはインタビューなので比較的読みやすい。
社会保障の再生と拡充を2段階で進める。
第一段階では財源としての法人税の引き上げは求めない。世界中で法人税引き下げ競争が進んでいることに異議を唱え、国際協調で引き上げる世論作りをする。
第二段階では応能負担で税収を増やすために、所得税の累進性を強化する。そのため、年収400万円夫婦片働き世帯で、現行年間7万5千円から2万円増える計算になる。そのように大多数の国民にとっても負担増なのだが、同時に進める経済改革で経済成長を図るから賃金が増え可処分所得は増えるはず、ということになる。
議論を呼びそうな所だけ書き出したのだが、政策としてのインパクトよりも、国民感情にマッチするかどうかに心が砕かれている印象である。
正しいことを言っても、国民から理解されなければ実らないということか。消費税反対の原則は断固として譲っていないのだが、負担を増やすといった方が国民が安心し、政策を信用してくれるのだという目論見である。
こういう姿勢は昨年の参議院選挙の敗北から共産党が学習したものだろう。
ただ、共産党が一歩踏み込んだ発言をした、これで展望が開けた、さぁ頑張ろう、という風にはなりにくい。共産党が悪いのではなく、現実があまりに複雑だからだ。
結局、政策面では今は何を言っても森原さん風に歯切れが悪くならざるをえない。
そういう中で匍匐前進する覚悟が必要だ。
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