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2012年3月 1日 (木)

日本医事新報 「臨床医学の展望2012」ノート

また春が来て、このノートを作る時期になった。これを続けている間はまだ仕事ができるのだろう。

○は要約 *は私の感想

1:糖尿病学

○糖尿病患者は癌をはじめきわめて広範な非血管疾患の死亡率が高い。いずれも空腹時血糖が高いほど死亡率が増加するので高血糖が直接的に関与しているらしい。

*糖尿病患者で死亡率が高いという疾患が広範すぎる。高血糖がすべてに共通していると考えるより、社会的要因のほうが共通しているのではないか。

○抗GAD抗体陰性の劇症1型糖尿病は急性発症1型糖尿病の1割を占めるが、TLR(Toll-like receptor)を発現する単核球のランゲルハンス島浸潤という特徴がある。

ここでも「自然免疫の過剰=サイトカイン・ストーム」が関与しているらしい。同じサイトカイン・ストームが生じる場で名前が違う、すなわち肺で起こればARDS、肝臓で起これば劇症肝炎、造血系で起これば血球貪食症候群、膵臓で起これば劇症1型糖尿病ということなのではないか。

○1型糖尿病において、持続(皮下間質液)糖モニター装置CGMS(continuous glucose monitoring system)と持続皮下インスリン注入CSIIの組み合わせは、低血糖の頻度を増やさず血糖コントロールを改善させる。欧米ではすでにリアルタイムに皮下間質液糖濃度を表示する装置も使われている。

○治療法の進歩にもかかわらず、糖尿病性腎障害はこの20年で34%増加し、糖尿病患者の35%に腎症がある。

○末梢神経障害性の疼痛に商品名リリカ(一般名プレガバリン)が長期処方可能となったのが大きな変化。SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)の商品名サインバルタ(一般名デュロキセチン)ー*これは昨年も書かれていたがーも期待されている。

○神経伝達速度検査(NCS nerve conduction  study)は大径神経線維の変化しかとらえられず、小径神経線維変化は分からないので糖尿病神経障害への臨床的意義は少ない。

○5年間の観察ではインスリン頻回注射で強化治療しても、標準治療に比べて全死亡、心臓血管死亡が減ることはなかった。低血糖による害が効果を相殺しているようだ。20年観察すれば遺産効果(レガシー・エフェクトlegacy effect=早期治療の遺産)がはっきりしてまた別の評価となるかもしれない。

○前糖尿病状態を三つの違う基準、すなわち

①HbA1c 5.7~6.4%(NGSP=現行の日本の測定法より0.4%高い数字で表現される)、

②空腹時血糖FPG5.6~6.9mmol/L(ブドウ糖は1mmol/L=18mg/dlなので100.8~124.2mg/dl)

③ ①+②

で約5年間経過観察した時、③は、正常血糖者に比べ32倍の発症率で ①、②の5倍だった。

したがって、HbA1c、FPGの双方を測定して対策を立てる必要がある。

○2型早期糖尿病患者の心臓血管危険因子(HbA1C、血圧、総コレステロールなど)に強化介入しても5年間の観察では効果がないという衝撃的な報告がヨーロッパでなされた。

*医療的介入が患者を幸福にするというのは医療者の思いこみ、お節介にすぎないことが多い。2型糖尿病への早期介入が無意味なら、患者扱いすべきでない人を患者だと洗脳することにより、通院時間と長い待ち時間で相当その人の人生の時間を捨てさせ、高い自己負担金のある日本では財布にも負担をかけたことになる。どこで医療者が介入すべきかはきわめて重要なテーマだが、それよりも糖尿病を発症させない社会的整備のほうが有効のようだ。

2:耳鼻科

○新生児聴覚スクリーニングが一般的になった。そこで発見される難聴では遺伝子変異による先天性難聴が多い。遺伝子解析で障害部位が分かるようになった。治療は低年齢での人工内耳植え込み手術が普及しつつある。

○良性頭位性めまいは耳石が半規管を浮遊する半規管結石症、あるいは半規管の調整部位であるクプラでの結石症として理解されつつある。

「結石症」として一括し、結石がどの場にできるかで病気がちがう、という考え方ができるかもしれない。上に書いた「サイトカイン・ストームの場」と同じ理解法。

○花粉症に対する減感作療法はすたれてきたが、ヨーロッパでは対象抗原を舌下に投与するSLIT(sublingual immunotherapy)が復活しつつある。日本ではまだ普及していないので、単なる話題の範疇。アレルギー性鼻炎に抗IgE抗体を使うと有効だが、きわめて高価なこの薬を、生命に関係のない疾患に使うことに意味があるかどうか議論が分かれている。

*いまのところ抗IgE抗体オマリズマブ(Omalizumab、商品名ゾレア)は重症の喘息にのみ使用されている。3割負担で月2万円以上の自己負担である。

○中咽頭扁平上皮癌の50%位はヒトパピローマウイルス(human papilloma virus HPV)によるかもしれない。oral sexが普及しているためである。診断はNBI(narrow band image)を用いた内視鏡が有効。飲酒と、飲酒後にj顔が紅潮すること(アルデヒド脱水素酵素ALDH2の異常)がリスクファクターである。

現在中学校3年の女子に普及中のHPVワクチンは男性の中咽頭癌を減らすだろう。それともALDH2の異常ある人はワクチンをするか?

○睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome SAS)未治療患者の死亡率は健常者や治療群に比べて3倍にもなる。治療は必須である。しかし、標準治療とされている経鼻持続陽圧呼吸療法(nasal continuous positive airway pressure: nCPAP)の継続率は50%以下で、半数以下の人は放置されてしまっている。

これに対して耳鼻科手術の改善が大きなテーマになっている。nCPAP一辺倒の時代でなくなりつつあるということである。

小児のSASは成人とは病態が大きく異なるうえ、生涯に対する影響の大きさが格段に違うので注目が急速に高まっている

*小児のSASに肥満が関与しているなら、小児の肥満は貧困によることがはっきりしているので、貧困対策が小児のSASを減らすはずである。

3 高血圧症学

○ 各種ガイドラインについていくつか要検討事項が浮かび上がってきている。

脳血管障害、冠動脈疾患、糖尿病合併において130/80と格別低く設定された目標が適切だったかどうか?

後期高齢者の中間目標150/90が適切だったかどうか?

第一選択薬ARB、ACEI,Ca拮抗剤と横並びにしたことが適切だったか?

○糖尿病合併群で厳格な降圧を求めたことの意義は薄れているようである。

○治療抵抗性高血圧への腎交感神経アブレーションは次第に注目されている。レニンーアンギオテンシン系への抑制に優れる。

○血圧の変動が激しいのもよくない。変動を抑える力が最も強いのはCa拮抗剤

4 肝臓病学

○免疫抑制剤、生物学的製剤の使用頻度が増えるに従い、すでにセロコンバージョンもしているHBV感染者 de novo B 型肝炎から劇症肝炎を生じる例が増えてきた。

○ペグインターフェロン+レベトール治療者の中で20%は全く効果がない。IL-28B遺伝子多型を検査することにより治療効果予測が80%の頻度で可能になった。まだ先進医療の段階だが。

○ペグインターフェロン+レベトールは50%で持続的にHCV核酸定量が陰性になるが、それが失敗したケースにはテラプレビル(TLV) 商品名テラビックを加えた3剤併用療法が可能になった。TLVはB型肝炎などで使われているのと同様な特異的な抗ウイルス剤である。ただし重篤な皮疹や貧血という副作用がある。

5 呼吸器病学

○2011年米国から低線量CTによる肺癌検診は肺癌による死亡率を20%減らし、それ以外の原因も含めた全死亡を6.7%減少させるという報告が現れた。ただしこれは喫煙者を対象にしたものであり、非喫煙者にそのままあてはめることはできない。

○1日1回でよい長時間作用型β2刺激薬インダカテロールが発売された。サルメテロール(製品名セレベント)より良い。喘息、喘息+COPDに単独で使うのは禁忌。

しかし、こんな話がトピックだろうか。セレベントを使い慣れている人はそのままでいいのではないか。薬屋の宣伝役になっているのではないかと書いた人を疑わせる。

○医療・介護関連肺炎(N-HCAP)という概念とガイドラインが作られた。

○津波肺(海水中の微生物+化学物質による複雑で重症肺炎)とは別に、東日本大震災の避難所で多発した肺炎は医療・介護関連肺炎とよく似て、避難所での低栄養と口腔内ケアの不十分さから生じることから避難所関連肺炎 shelter-acqired pneumonia と名付けられた。

6 腎臓病学

○ARBやACEIは糖尿病性腎症の蛋白尿改善効果があるが、過度の降圧で心臓血管死の危険を高める。

○ピルフェニドン(商品名ピレスバ)は肺線維症の薬として発売されているが、糖尿病性腎症も改善させる。今後適応が拡大するかもしれない。

○急性腎障害AKIの早期診断に血中、尿中のNAGL(neutrophil gelatinasa-associated lipocalin)が有望視されている。尿中L-FABP(liver fatty acid binding protein)は2010年検査薬として承認された(保険収載については記載なし)。尿中KIM-1(kidney injury morecule-1)もいいようだ。

7 脳血管内科学

○TIAを救急疾患としてとらえる

急性冠症候群(acute coronary syndrome )を不安定狭心症+急性心筋梗塞の総称としてとらえるように、TIAと虚血性脳卒中(acute ischemic stroke AIS)を総称して急性脳血管症候群(acute cerebrovascular syndrome)と呼ぶようになっている。

○心房細動に伴う脳塞栓が、脳卒中全体の20%を占めるようになり重要性を増している。これには抗血小板剤は無効だが、抗凝固剤ではワーファリンより、プラザキサやリバロ(Ⅹa阻害剤)が優れているという話が延々と続く。

○脳卒中発症早期からの積極的降圧は転帰を悪くする。脳梗塞で220/120以上、血栓溶解療法予定者で185/110以上が降圧対象である。

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