雑誌「月刊保団連」2012年1月号: 渡辺 治「2012年の展望を語る」・
極めて要領よく現在の情勢を説明する文章が、雑誌「月刊保団連」2012年1月号の巻頭を飾っている。
医療運動に従事するすべての人に格好の学習材料である。
もうすぐ2年に1回の総会を迎える全日本民医連の方針作りの上でも、この文章を読んでおくことは大変有益である。
2011年には2つ国民的体験というものがあった。そしてそれぞれに二つづつ教訓がある。
国民的体験A 「民主党政権の右転落」
教訓1 運動の力で構造改革に歯止めをかける政権をいったんは作ることができるということ。
高校授業料無償化、障害者自立支援法廃止、生活保護の母子加算復活はその成果である。
教訓2 しかし、体系的に福祉の充実を進めないと構造改革政治は止められない。
新しい福祉国家構想は急務である。
国民的体験B 「東日本大震災と原発事故」
教訓1 震災・事故がこれほど深刻化したのは震災以前の構造改革政治のためである。
(病院や老人施設はなくなり、公務員は減らされていた。)
そして災害に乗じて政府の「東日本大震災復興構想会議」は一層の構造改革を進めようとしており、真の復興が妨げられようとしている。
新しい福祉国家構想は急務である。
教訓2 災害後の社会は、新しい福祉国家が実現する社会保障の萌芽を垣間見させた。
被災者の病院窓口負担無料、健康保険料の支払い猶予、生活保護給付要件の緩和、雇用保険の延長などはすぐに実現した。
もとより、そういう措置が必要なのは被災者だけではない。災害は震災以前から社会に蔓延していたのである。
こうして二つの国民的経験はいずれも新しい福祉国家構想の必要性を証明するものだった。
しかし民主党政権は野田内閣に至って完全に構造改革に回帰していた。その4大課題はTPP参加、税と社会保障の一体改革、原発再稼働、普天間基地の辺野古移転である。これを実行するため強権的になり、自民・公明と協調するという方向が明瞭になってきた。
国民の側は、この4大課題を阻む大国民運動を起こさなくてはならない。
TPP反対運動では、既成組織が大合同してオールジャパンの運動になった。
原発反対運動は、既成組織にとらわれない新しいモデルを作りだした。「9.19さよなら原発集会」に見られるように、九条の会型の広範な運動に加え、子育てしている母親や若者の運動がそれである。
このように運動の大きな「塊」二つが存在している。
ここから新しい福祉国家に向かってもっと大きな運動を起こさなければならない。
新しい福祉国家をつくるために5つの留意点を述べる
①雇用保障と社会保障を車の両輪にする。
②社会保障憲章と社会保障基本法という相補的な二つの提案を用意する。
③その二つは憲法25条を具体化して、人間らしい生活の水準、範囲、原則を新たに明らかにする。社会保障の原則を否定する個別の実体法の条項もただす。
とくに居住保障を明確に位置付けることは重要である。
④社会保障の原則は二つあることを確定しておく。
ⅰ) 必要充足の原則・・・医療や介護、保育などのサービスにおける現物給付原則はこの中に含まれる
ⅱ) 応能負担原則・・・窓口負担0原則や保険料の減免の必要性、資格証明書発行の禁止などはここに入る
⑤社会保障憲章や社会保障基本法は「社会保障と税の一体改革」と真っ向から対決した内容になっている。
現物給付否定 対 現物給付原則の闘いである。
消費税引き上げ 対 応能負担+大企業の負担責任の闘いでもある。
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