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2011年12月30日 (金)

中野剛志「国力論」以文社2008、「国力とは何か 経済ナショナリズムの理論と政策」講談社現代新書2011・・・中国が第三次世界大戦の引き金を引くことを予想させるところにこの新書の価値がありそうだ・・

旧友から貰ったので読んだ本である。

まず前者から読み始めた。

著者は最近「TPP亡国論」などを出版して僕らとも共闘できる相手だと思っているのだが、これくらい僕に予備知識がなかった本も珍しく、ほとんど理解できない。 後者を読んで少しわかってきた。

著者は主流派経済学、すなわち構造改革派あるいは新自由主義派が、資本と国家の一体化を進め、国民を忘れていることに反対している。

後者の新書の方で東日本大震災の復興も国民の団結心、すなわちナショナリズムなしにはありえない、新自由主義に任せれば被災地は見捨てられるだけだと言っている。

国家は資本を軍事力で守っているが、本格的な軍事力は国民を通じてしか調達できないことはエレン・メイクシンズ・ウッドも言っていることである。けっして新自由主義が国民を忘れてしまえるわけではない。しかし優先順位として劣位においているのは確かだ。

著者の結論は国家と資本の癒着による国家資本主義への歩みを止めて、国民国家、すなわち国民志向の経済を持つ国家あるいは経済ナショナリズムを作ろうという呼びかけである。

柄谷行人の言うように資本、国家、ネーションをそれぞれ商品の交換、収奪と再分配、互酬(贈与と返礼)という生産物の主要3交換様式を代表する現代社会の実体的な土台とする立場からは、著者がネーションを主観や想像の産物とすることには異議があるだろうが、ともかく国民本位のすなわち互酬的交換を拡大するという立場であることは間違いなく、それは私たちとも共通するといってよい。

ただし、それ以上の具体像がここには示されていない。

一方、私たちの目標は、新しい福祉国家と新しい公平な国際経済秩序=真の国連中心主義である。これは互酬的交換を、ネーションとしてではなく、それとは違う新しい共同体連合として築きあげながら、グローバリゼーションと正面から向かい合って横に連帯を広げて行くという構想である。ネーションはそのなかでに繰りこまれ。消えるものではないが、中心にくるものではない。やはり国民国家の進化とは違う。

そういう意味でこの2冊の本は、僕には評価を定められないモヤモヤが残る本である。

それよりは、むしろ、国家資本主義の道を暴走するアメリカ、中国、ロシア、とりわけネーション形成が格別困難な中国が第三次世界大戦の引き金を引くことを予想させるところにこの新書の価値がありそうだ。

具体的には、国内の莫大な貧困層の異議申し立て、あるいはチベットなどもともと中国ではなかったところの独立運動が内乱に発展し、そこにアメリカ、ロシアが介入することから世界的な戦争は始まるだろう。

(そのさい著者が核兵器を抑止力と考えているのは間違いである。)

そして、この世界的戦争にあたって、戦争に加担しない、あるいは戦争を防ぐ日本国家をどう作るかが実は新しい福祉国家・日本が与えられた真の歴史的課題である。

それが新しい国民国家では、何とも心もとないではないか。

また、その事態に対しては東アジア共同体構想は何の意味もないだろう。

以下はメモ

○新書

35ページ

「日本は1998年以降デフレから抜け出せなくなっている」

36ページ

「デフレは国力を損なう。

労働者の所得は低下する。他方で輸出企業は人件費の圧縮が可能になり株主の利益を増やすことができる。その結果、労働者階級と資本家階級の所得格差が拡大する。

デフレは社会の格差をかかだいさせ、ネイションを分解させていく」

37ページ

「デフレによる失業は組織や社会から個人を阻害する。

個人の自尊心やアイデンティティは失われ、社会への敵意や憎悪を育てる。社会秩序は不安定になり、全体主義を生んでいく。」

「デフレによって内需がなくなり、海外市場の収奪のためのグローバル化が進行する。」

39ページ

「1997年の橋本構造改革からデフレが始まった。

1999 労働者派遣事業が製造業を除いて原則自由化。⇒2004製造業でも派遣解禁

2001 確定拠出年金制度導入=企業の年金への責任免除

2002 商法改正 アメリカ的社外取締役導入 外資による買収の自由化

2005 会社法制定 株式交換が外資に解禁⇒90年代まで10%だった外国人持ち株比率が2006年には25%に。

いずれも競争激化によるデフレ圧力となった。

その結果、大企業の純利益、役員報酬、株主配当は急上昇した。

一方、失業率は高止まり、給与、労働分配率は下がり続けた。自殺の急増、非正規労働者の増加、就職難、地域共同体と家族の解体、無縁社会の出現も、このデフレ不況の結果である。」

○新書43ページ

「1970年代後半、アメリカの富裕層の上位1%が有する富は国民総所得の9%以下にすぎなかったが、2007年までには国民総所得の23.5%に膨れ上がり、貧富の格差は著しく拡大した。」

44ページ

「グローバリゼーションによる貧富の格差、賃金の低下は、アメリカの内需も低下させるはずだった。ところが、住宅価格をバブル化させることで、アメリカの労働者に賃金低下を借金で補わせ購買心をあおって内需を減少させなかった。2007年そのバブルははじけて、リーマンショックとなって世界的な経済危機が起きた。⇒53ページ アメリカは大規模な金融緩和を実施し、あふれたドルは、製造業ではなく金融市場になだれ込み、原油や穀物価格の高騰を引き起こした。」

「しかし、その後もアメリカが消費・輸入過剰、アジアが消費過小・輸出過剰というグローバル・インバランスは続き、バブル再現の危機は続いている。」

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