TPPと医療安全・・・商品化する医療サービスと富裕層の侍医化する医師による医療安全とは・・・アメリカの現在が日本の未来だという話
TPPのもとで医療がどうなるかを考えるには、今朝小池晃前参議院議員がツイッターで知らせてくれた資料が極めて有益である。それは米韓FTAのなかで医療がどうなったかを分析した論文である。
http://tpp.main.jp/home/wp-content/uploads/b66fdd3c3b0960c21cde33aea39199c9.pdf
○米国で特許を得た医薬品や機械は自動的に韓国でも特許を取得するし、韓国が医薬品にどんな価格を設定するか、どれだけ米国から医薬品や医療器械を輸入するかもアメリカから注文をつけられる。
○韓国の医療保険制度は、脆弱な公的医療保険と、主として米国の生命保険会社が関わる自由診療部分の2階建てになっているのだが、政府が公的医療保険制度を充実させて、自由診療部分の利用が減れば、そこに関わっていた米国の生命保険会社は韓国政府に市場縮小による損害賠償を要求できることになっている。
○医療特区が3か所指定され、そこでは株式会社による病院経営が可能になっている。米国資本による全室個室のニューヨーク基督長老会病院もそこにある。健康保険の6、7倍の医療費が請求されるが利用者は多く、公的医療を揺るがせている。
TPPは多国間の協定の形をとるが、経済力の大きさからは事実上日間のFTAだから、TPP参加で日本の医療がこうなっていくのは目に見えている。
以下は、これを読んで僕がさらに考えたことである。
公的医療保険制度の改善が今後ありえないとすれば、富裕層は公的医療保険制度への支出を渋り始め、公的医療保険制度はますます衰退する。
貧困層にとって公的医療保険制度が生命を救ってくれる存在でなくなる。彼らからは医療が消えていく。
しかし、野田首相が言うように国民皆保険の枠組みは残され、貧困層からも多額の保険料は相変わらず徴収sれる。そうして公的医療保険制度が維持されている部分は富裕層にとって自由診療を受けるさいの節約として利用価値を発揮する。手術料は自由料金なだったが、入院費は保険が利いたということになるのである。
野田首相が国民皆保険を守ると言っているのは、税金強盗として保険料は徴収し続けると宣言しているにすぎない。
(本当だったら、福祉国家の首相は国民皆保険を拡大する以外に考えることはなく、維持するなんて言わないのだ)
医師をはじめとする医療従事者は、利用者の所得階層にに応じて仕事をするという、いわば縦の偏在がさらに進むだろう。
医師が富裕層の侍医化するということである。
そして医師・看護師が高度に集中する富裕層相手の病院と、医師が払底した貧困層相手の慈善病院とに病院も2極化する。慈善病院とは、無料低額診療をうたう恩賜財団法人済生会病院など。アメリカのTVドラマ「ER」のようなものだろう。その中間の病院は、人員基準を満たさないという格好の理由で消去される。公的医療保険の縮小のためにも、中小病院は減らさなければならない。
そこで、標題のTPPと医療の安全に話を進めよう。
混合診療解禁、株式会社の医療経営参入による、民間医療保険と公的医療保険による医療サービスの2分化構造が前提の話である。
医療サービスは混合診療部分はもちろん商品そのものであるが、公的医療保険部分でも商品化が進行する。公的医療保険によるサービスが商品化した例は介護保険である。介護保険ではケアプランに縛られて現場のサービス提供者が利用者のニーズに応じて裁量する権利が奪われているのは周知のことだが、これが公的医療保険に導入されてしまう。
こういう状態で、商品としての医療サービスの安全のあり方が決まってくる。
医療サービス商品の安全は富裕層の利用する病院でのみ、アメリカ並みに高度化する。
貧困層用の慈善病院は、貧困ビジネスの場となり、安かろう、悪かろうの世界になる。
新薬の治験のような危険なことは慈善病院にいる貧困層の患者に一定の見返りを付けて行えば良いのである。 同時に、その病院は治療をあきらめる人も多く、臓器提供の宝庫となる。
富裕者向けの高度急性期病院しか視野にない一部の論者にとって、日本の医療安全や移植医療の夜明けはそこにあるのかもしれない。
しかし、大多数の国民にとっては、医療の安全は19世紀以前の暗黒状態に後戻りする。
・・・・要するに、それはアメリカの現在が日本の未来だという話にすぎないのである。
*考えてみると富裕層にとっても危険なことは多々発生する。
たとえば、新薬の認可権が事実上アメリカに独占されれば、アメリカでの使用法・用量が直輸入され、小柄な日本人には過量服用になることが多くなるだろう。
薬や検査の値段がアメリカで決められ勝手に安くできないため、悪性腫瘍の闘病が長期化した場合、医療費の負担が富裕層からの転落の原因になる。
病院内では医療従事者の階層分化が激しくなるので、チーム形成が難しくなり、医療の安全にとって最も重要なコミュニケーションが失われる。(そこで、高度急性期病院では米軍に範をとった無理やりなチーム形成が強制されるのでもあるが)
富裕層への反発は社会に広がり、その生死に心から共感する医療従事者は減り、ターミナル時期の孤独が、本質的に深まる。
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