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2011年11月28日 (月)

健康権について・・・法制度の健康影響評価こそが僕たちの仕事だ=健康の法制度的決定要因探求のすすめ・・・金沢大学 井上英夫教授

11月27日、社会保障学で有名な金沢大学井上英夫先生の講演を聞いた。

日本国憲法や世界人権規約における健康権の位置づけを明らかにし、生存権を包含して健康権という概念に発展させていくことの意義などが話の主眼だった。

ただ僕にとっては、それは静的に過ぎる論理展開で、もっと動的に資本主義社会のなかでどのように国民の健康の剥奪が、資本による国民からの収奪の重要な一環として生じるかを論じ、そういう状況に追い込まれないための権利としての健康権の必要性という論立てがほしかった。

つまるところ、憲法と健康権という話でなく、社会疫学と健康権の関連、さらには正義、平等、潜在能力と健康権の関連を僕は聞いたり話したかったりしたのである。

そこで、やむなく唯一の質問者となった。

「先生の話は健康権の一面しか語っていないのではないか、先生の提唱する新しい福祉国家、社会保障憲章、社会保障基本法のなかに健康の社会的剥奪要因を論じる社会疫学的知見は果たして生かされようとしているのか」

居合わせた同僚からは、お願いして講演に来てもらったゲストの話を主催者が即座に否定してかかるような質問なのでぎょっとしたと言われた。もちろんそういうつもりではなかったことはそのあとの経過で明らかになる。

井上教授は温顔を崩さず、「それはもちろん私も分かって話しているのだ。

しかし、その仕事を発展させるのは君らの仕事ではないのか。

講演の冒頭に、1983年の老人保健法実施のことを述べた。老人保健法が老人の命を延ばしたのか短くしたのか、健康を良くしたのか悪化させたのかについて、民医連が実証に取り組まなかったことが、その後の老人医療改悪反対の運動に十分な力が備わらない理由となったという理由で、いまでも民医連に相当の責任があると思っている言ったはずだ。結局はそのことだ」

「北欧では、ハンセン病の研究所が、患者の全カルテを押さえて、ハンセン病にかかわる法律改定がそのつど患者へどういう影響を与えたか実に息長く調査中だ、そのくらいのことを民医連もしてはしてはどうか」

と答えられた。

実は、その答えこそ僕が待っていた答えなのだった。

国保制度の改悪で手遅れ死亡者が何人と民医連は毎年発表してそれなりに反響もあるのだが、必要なのはそのレベルのことでなく、可能ならすべての法律の健康に対する影響を評価することから、どういう法制度が国民から健康を剥奪していくかを実証的に明らかにしていく、言葉を換えれば、健康の法制度的決定要因、あるいは剥奪要因を明らかにしていくことが、政治対決の上では不可欠となるのである。

法制度の中にある病気の原因を探るという意味で、行ってみれば法制度疫学とでもいうべきものの可能性を井上先生は口にし、それはやるのはお前たちの責任だと言ってのけたのである。

法制度疫学は、健康影響評価HIAという名前でも呼ばれており、簡単な教科書もあるが、民医連が医療活動と緊密に組み合わせて発展させるべき領域だろう。

その成果がもし上がれば、健康の社会的決定要因の探求に、ユニークな視点からの大きな貢献をなすことだろう。

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