« 日本人の意識が変わってきたかどうか・・・鈴木茂さんを思い出す | トップページ | 1週間ぶりに病院に出てみた »

2011年9月 2日 (金)

エスバー(SBAR)ってなんだ?またもや米軍由来の手法が日本の医療に持ち込まれようとしている・・・厳しい階級制=権威勾配を前提とした姑息な工夫・・・必要なのはそういう工夫が要らないフラットな関係だ・・・そこにも発展の契機はあるのだが

ある会議に出ていたらエスバーという言葉が飛び交っていた。

出席者の顔ぶれからして、共通の知人か、あるいはその中の一人が愛称「S婆」(Sはイニシャル)なのかとも思い、なんとも面妖なことであると思い、恥を忍んで尋ねてみた。

それは「S」の頭に―を引いた「Sバー」でもなくもちろん「S婆」でもなかった。

SBARなのである。その会議の場では、これは看護師が医師に報告するスタイルのことなのだという。

状況・背景・評価・提案(situation-background-assessment-

recommendation)の頭文字を取ってSBARというのである。

言うまでもなく医療事故の主な原因は、コミュニケーション不足が圧倒的な第一位である。

そしてコミュニケーションを向上させる基礎技術として、伝達事項を均一化させるということが工夫され、それがSBARなのだという。

SBARの順に看護師が報告すると、上手な報告になるらしい。医師同士などもこれを念頭に置いて話すといいとされている。特に緊急時向きとされる。

* 話の筋を濁してしまうが、つい横道に。

最近感じていた疑問がひとつ解けた。

病棟からかかってくる電話のことだが、報告というよりやたら命令されることが増えたのである。「抗生剤の指示を出してください!」「血ガスをしてください!」

「まった、まった、なぜその状況で抗生剤なの?」「血ガス結果を看護師さんがどう使うの?」という押し問答になることもしばしば。

そう言わないと、当の看護師があとで長や先輩の看護師に叱られる軍隊的構造も見えてきた。

SBARのなかでR、すなわち推薦・提案が看護師集団にとても気に入られたのだろう。ならば推薦・提案という柔らかい言葉より、命令としてO=order にしたらどうか。

その時はSBAO、発音は少し工夫してSバウ!!としよう。獰猛な感じが良く出ている。

ただし、僕は、看護師が治療法を医師に積極的に提案すること自体は大賛成である。あとで述べることになるが、そのような役割分担の重なり合いが組織をフラットにして、安全を守る上で本当の意味で役立つだろう。

閑話休題=それはさておき、SBARはチームステップスTeamSTEPPSという、医療安全のためのチーム作りの技法の一部である。

チームステップスTeamSTEPPSは、Team Strategies and Tool to Enhance Performance and Patient Safetyである。訳せば「任務遂行と患者安全を高めるためのチームとしての戦略とツール」である。

となると、もう少しその起源をよく見ておく必要がある。

「チームステップスTeamSTEPPS」の生みの親はアーク=AHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality;医療品質研究調査機構)であるが、その最大の協力者はペンタゴン=国防総省だった。

チームステップスTeamSTEPPSは、米軍におけるチームワークに関する研究に起源をもつのである。

医師の初期研修もそうなのだが、病院の教育の中への米軍の技法の導入が相次いでいる。

その中でSBARも米軍の潜水艦のなかでの情報の迅速伝達の方法である。

戦場、とくに潜水艦という特殊な閉鎖空間の中ではコミュニケーションの正確さなしには生き残ることができない。

その前提は急峻な権威勾配の存在の現状肯定である。将校―下士官―兵士という厳密な階級制のなかで、どう下からの情報伝達の難しさによる弊害を緩和するか、それでしかない。

もし、兵士が将校に対し「お忙しいところ失礼します、○○中佐」とおびえながら発言することなく、「いいですか、○○さん」と話しかけられる関係にあれば、SBARという技法自体が不要だったろう。合理的な報告方法として別な発展を遂げただろう。

そういう条件で発生したものを、無条件に、かつ無批判に病院に直輸入してよいものだろうか。これから生まれるものは、僕たちが求める安全文化というものとは「真逆」の方向を向いているのではないか。

本当に安全のために必要な、お互いの平等感、権威勾配の少なさの上に築かれたコミュニケーションは残念ながら「チームステップスTeamSTEPPS」にもSBARにもない。

そこで、医療安全に導入される技法の評価基準を最後に提案しておくと、唯一、権威勾配を緩やかににするのに役立つか、役立たないか、である。

それでも流行してしまうSBARについて、私が求めるのは唯一、部下からやってくる A ;assessment 解釈やR ; recommend 提案を上司が気持ち良く受け入れることである。じつはそれが権威勾配をなくしていく具体的な第一歩でもあるのだろう。もちろん、上からの改革の限界は最初からはっきりしている。

すこし視点を変えて、「チームステップスTeamSTEPPS」導入に熱心な集団はどこだろうか。

自衛隊のことは知らないが、医療界の中では軍隊に最も親和性が高い組織、日本看護協会である。

看護協会が医師に対しては正当に対等な関係を求めながら、内部ではひたすら統制に努めるのは、途上国の開発独裁政権に似ている。すなわちルーマニアのチャウシェスク、リビアのカダフィのようなものである。

フィッシュ!哲学もそうだが、軍隊由来、あるいは軍隊に親和性の高い技法を導入することは、最後には民主主義の破壊、ファシズムの温床になることを覚悟しておく必要がある。

インターネットは例外だという向きもあるが、民間メールのすべてが盗聴されていたらどうだろう?そしてそれは大いに真実らしい。

|

« 日本人の意識が変わってきたかどうか・・・鈴木茂さんを思い出す | トップページ | 1週間ぶりに病院に出てみた »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

とても興味深く拝見させていただいてます。
Rは、たいていの医師は「そんな提案しなくてもわかっている」的な回答だったり、推薦・提案するとあえて天邪鬼になる医師もいます。だから、〝こう答えるであろう”予測をしてわざと「どうしましょうか」とお伺いを立ててしまうことが現状です。看護師⇔看護師間なら成立するsbarも、医師⇔看護師間はありえないと思うのは間違った考えでしょうか

投稿: 星野 | 2014年7月10日 (木) 04時00分

星野さん、コメントありがとうございます。

医師を手のひらに載せて操作しようという技法ですね。

確かに、エキスパートナースの提案は、まるで自分がそれを思い付いたと感じさせる巧みさがあって、まるで、提案自体がなかったような気がするものです。

それに対し、エキスパートナースに達しない優秀な看護師さんの提案には、何が何でも医師を自分に従わせよう、それによって同僚ナースに自分の優秀さを誇ろうという野心を感じて、医師はあえてその提案を退け、結局は患者さんに迷惑をかけるということが起こりえます。

もっとフランクに提案する、一度提案して退けられても2度は言っておくというルールを繰り返し実践することでしか、この困難は解決していかないのではないかと思います。

エキスパートなーすについては、私のブログのなかで、ベナー看護論に触れたものも読んでいただけたらさいわいです。

投稿: 野田浩夫 | 2014年7月10日 (木) 09時40分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: エスバー(SBAR)ってなんだ?またもや米軍由来の手法が日本の医療に持ち込まれようとしている・・・厳しい階級制=権威勾配を前提とした姑息な工夫・・・必要なのはそういう工夫が要らないフラットな関係だ・・・そこにも発展の契機はあるのだが:

« 日本人の意識が変わってきたかどうか・・・鈴木茂さんを思い出す | トップページ | 1週間ぶりに病院に出てみた »