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2011年8月 9日 (火)

日本の在宅医療の未来について

ずいぶん大きなテーマを掲げたが、8月末に民医連で在宅医療交流集会を開くための準備をしているなかで考えたことのまとめをアップしておきたかったからである。

文章が生硬なのは「問題提起」なるものを書いている影響で、組織に属することは人間の柔軟性を失わせることの証拠のようなものだろう。

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日本の在宅医療の可能性と展望は、日本社会の大きな歴史的な変化に関わっている。

変化の第一は人口減少・少子化を伴った急速な超高齢社会の進行と疾病傾向の変化による医療ニーズの高い高齢要介護者の急速な増加である。現在と2025年を比べると、在宅介護を受ける人が240万人から450万に、訪問診療の患者60万人が100万人へ、年間死亡者が120万人から160万人へと大幅に増加する大きな変化が見込まれる。

第二は、医療の目標を単なる「治療」とせず、高いQOLの実現に求める国民意識の深い変化である。

第三は、「正義に裏打ちされた平等な健康」への世界的な関心(WHOClosing the gap in a generation2008年は「不正義が大規模に人を殺しつつある」と現状を総括した)の高まりである。

これらの大きな歴史的変化が、WHOが推進するプライマリヘルスケア、より高度化する急性期病院医療と並んで在宅医療を21世紀の医療の主役の一つという重要な位置に押し上げている。また、その反映として在宅医療にこれまでの急性期医療では得られない魅力と課題を見つける医療従事者が増えていることも在宅医療発展の大きな要素となる。

このように在宅医療が21世紀医療のなかで飛躍的に大きい役割を担うことは確実ですが、それが国民の期待に沿って発展する道の前には、歴代の政権が取ってきた新自由主義的政策が大きな障害として立ちはだかってもいる。

低所得になるほどうつ病や認知症、要介護状態が増えるという健康格差の存在を社会疫学の実証的調査が明らかにしている今日の貧困と健康格差の増大は在宅患者の激増とその放置とに直結していくということである。

在宅療養が成立する前提条件として、すべての人に良質な居住が保障されているということがあげられる。国際人権規約も「居住の権利はすべての権利の基礎であり、居住の権利なしには他のあらゆ人権は成り立たない」と規定する。しかし、これまでの日本の政治は「基本的人権としての居住」という視点を欠落させてきたので、在宅医療が成り立たない居住状態の人も多く存在し、その解決は急務となっている。

死亡場所についてみると、現在病院90万人、自宅14万人という構成だが、厚生労働省の計画では2025年「病院90、ケア付き高齢者住宅50万人、自宅20万人」と、増加分50万人はケア付き高齢者住宅が想定されている。医師は高度急性期病院に集中させようとしており、在宅医療に従事する医師数を現在以上には増やそうとしていないのが分かる。ケア付き住宅の建設はもっぱら民間不動産業者が行い、医療ケアは契約した看護師に任せられるということが予想される。私たちが考えるように在宅医療が現在の姿のまま数倍に拡大されることを政府が構想していないことの認識が重要だ。

また大都市圏への過度な人口の集中、全国的な家族介護力の低下と地域コミュニティの消失も在宅医療の成立や質の向上を阻む。大都市部では急速に高齢化が進むため在宅医療需要が激増する。地方では、著しい医師不足、開業医の高齢化によって在宅医療の供給が困難に陥る。

こうした中、私たちがめざす在宅医療の将来像は、現在の数倍の規模で展開されながらも、サービス供給に貧富の差がないこと、良質な住宅・居宅を土台にしていること、「在宅入院」とでもいうべき高い技術レベルに支えられていること、保健・介護と一体になって生活地域で展開されていること、それらの結果として患者の高いQOLが実現されていることが貫かれているものである。 

その時、在宅医療に従事する医師の養成が事の成否を決定するものとなる。

第一に、初期研修時から在宅医療を体験し、その後も病棟から在宅まで全体を把握できる総合的視野を持った臨床医として育成されることが重要である。日本プライマリ・ケア連合学会が進める家庭医療専門医研修の普及と整備が望まれる。

第二に中堅医師が新たに在宅医療を担う総合医となることも可能にする道も開拓しなければならない。

第三に、現在診療所や病院ですでに総合医機能を果たしている医師は、一歩進んで地域に総合医療・在宅医療重視の流れを作り出すことが期待される。地域の中小病院が統一した総合医後期研修プログラムを持つことが可能になれば、医師不足に悩む医師過疎県においては地元への医師定着につながる。

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