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2011年7月24日 (日)

大江健三郎ほか「取り返しのつかないものを、取り返すために 大震災と井上ひさし」岩波ブックレット2011・・・出典がさすがに大江さん流にユニークだが、少し記憶違いがあるのでは?

2011年4月9日、井上ひさしの没後1年を記念して開かれた鎌倉九条の会の記録である。

講演者は順に、内橋克人、なだいなだ、大江健三郎、小森陽一。

内橋さんは「がんばれ日本」の掛け声の空疎さを指摘している。絆という言葉は動物をつなぐ綱を意味し、「絆の復活」とは国民の奴隷的状態の復活だとする。巨大な複合災害からどのように社会の転換方向を探り当てるのか、今垂れ流されている言葉の中に答えはない、というのが内橋さんの言いたいことである。

それから日米安保は単なる軍事協定ではなく、強力な経済協定であり、すでに1961年に前年締結の安保条約に基づいて大豆、小麦などの主な畑作農産物は自由化され、ここから日本の農業のすさまじい衰退がはじまっていることを指摘している。

TPPが、単なる経済協定でなくアメリカの対中国軍事作戦の一環だということを品川正治さんが「世界」の東アジア特集号で指摘していたが内橋さんはその裏を述べているわけである。

なださんの取り上げる沖縄戦の母子の靖国合祀への抵抗の話も興味深い。

大江さんは、何と「父と暮らせば」の脚本を鎌倉九条の会の女性と掛け合いで朗読している。愛媛の生まれだから、広島弁を何とか演じることができるというわけである。

そのあと、表題の「取り返しのつかないものを、取り返すために」の話になる。それは井上ひさしと並ぶ21世紀の偉大な劇作家木下順二の作中に出てくる台詞で、大江さんは今がその時なのだ、というのである。

その台詞が出てくる作品を「神と人とあいだ、第二部 夏・南方のローマンス」と大江さんがしているところで僕は驚いた。普通は、この台詞は同じく木下順二の「沖縄」という作品で、虐げられた沖縄の象徴としての主人公 秀が劇の最後に発する言葉として僕たちには記憶されているものである。

深夜に明日の仕事を気にしながら、僕は岩波文庫の木下順二作品集を本棚から探すこととなった。再読すること1時間、ようやく女主人公の漫才師・トポ助の目立たないセリフとしてあるのを発見した。

ただし、その台詞は大江さんの言うように、劇のしめくくりの決意としてあるのではなく、別の設定のように思える。

もしかしたら、やはり大江さんは「沖縄」と混同しているのではなかろうか。「世界」の5月号で彼が大石「又七」さんを「又八」さんと間違えたことが思い出される。

おかげで、今日の日直業務までの睡眠時間が4時間から3時間に削られてしまった。大江さんは有難くもあれば迷惑でもある存在だ。

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