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2011年6月 1日 (水)

2011年医療情勢

毎年6月になると「医療情勢の特徴」という文章を書かねばならない。没個性に正確さだけを要求されるものだからあまり楽しい仕事ではない。はっきり言って苦業である。しかし、後になって見直すと結構役に立つことがある。そこで、今回も個人用にここに記録を残しておくことにした。

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2011311日に生じた東日本大震災は未曽有の大被害をもたらし、同時に日本社会のもつ諸問題を一気にあぶりだしました。それは時代が「戦後」から「東日本大震災後」に移ったとさえ言われるものでした。

とりわけ「繁栄する大都市」の対極にある「衰退する地方」*1を襲った災害の復興のありようは、日本の「地方」がこのまま、自民党―民主党と引き継がれ強化されている新自由主義的な経済政策の犠牲であり続けるのか、それとも憲法25条に根拠をもつ生存権が改めて日本全国に根付いていくかどうかの分岐点になろうとしています。  

1995117日の阪神大震災の復興の反省と教訓*2が今こそ生かされ、「自助」と「互助」を押しつける新自由主義的な政府の姿勢に対して、徹底的に住民の立場に立った災害復興が進められるよう全国的な取り組みが求められています。

福島原子力発電所に起きた過酷事故は、放射能による世界的な環境汚染と多数の住民被曝者をもたらし、核兵器・原発問題において、ヒロシマ・ナガサキに続くフクシマという日本の地名が世界の人々に記憶されるほどのものとなりました。

一刻も早く、原子炉の内外に残る膨大な核燃料の処理、住民への十分な経済補償、原発労働者・住民への被曝健康対策がなされるべきです。同時に政府や「原発利益共同体」*3が主張してきた原発「安全神話」の破たんが明らかになった今、日本の原発政策が根本的に改められることが求められています。私たちにとっては山口県に建設予定の上関原発の建設中止、近隣の愛媛県伊方原発、島根県島根原発の廃炉を求める運動、および昨年のNPT再検討会議への代表派遣で盛り上がった「核兵器廃絶」運動の一層の高揚につながっていくべきものです。山口県知事は313日に上関原発の建設工事中断を中国電力に要望し、519日には建設に必要な海面埋め立ての免許を20129月に失効させる方向を示唆しています。527日は周南市議会が上関原発建設中止を県に要望する意見書を全会一致で採択しています。この動きを前進させることが私たちにとって極めて重要になっています。

一方、震災以前から進行していた問題も重要さを減じることはなく、むしろ震災によって危機は深まっています。

なかでも米軍再編と沖縄・普天間基地の辺野古移転、消費税増税、TPP参加、介護保険法改定、新高齢者医療制度、暮らしと雇用、および医師・看護師不足による「医療崩壊」の諸問題が引き続き私たちにとって切実なものとなっています。

○ 米軍再編問題では、米軍海兵隊のグアム移転費用に関して、日米両政府間の合意で日本の負担を相対的に少なく見せる偽装があったことが報道され*4、国民の憤りを呼びました。

普天間基地の辺野古移転を再確認し鳩山前首相の退陣をもたらした日米合意から1年たちましたが、沖縄県の世論は揺るがぬ反対姿勢を貫いています。米国議会でも辺野古移転を無理だとする意見が出始めています。しかし、県内移転案が引き続き計画されており、無条件返還に向けての運動はさらに強められる必要があります。

岩国基地が沖合に拡大されてから1年が経ちましたが、厚木基地から移転する59機の空母艦載機は「スーパーホーネット」という強力な新型機に更新されており騒音被害の増大が予想されています。愛宕山に米軍住宅を建設する計画も住民の強い反対にも関わらず進行中です。

○ 消費税増税は震災復興や社会保障改革など、その時々の都合を持ち出して実行が執拗に計画され続け、マスコミも大々的に利用されていますが、国民はそれを許していません。

TPP環太平洋戦略的経済連携協定)参加を政府が表明しましたが、それは日本の経済主権をアメリカに売り渡し、日本の農業や農業の守ってきた日本の環境、さらに医療はじめ広範な諸産業の崩壊をもたらす「売国、亡国」の道だという認識が国民のなかに広がっています。またアメリカの中国警戒戦略の中に日本をつなぎとめ閉じ込めることによって、自主的で平和な東アジア(共同体)の形成を妨害するものであるという指摘*5もなされています。

○ 2012年実施に向けて介護保険法改定が進んでいます。特に注意すべきは軽度者を介護保険の枠から外し、「24時間」対応の名のもとに訪問ヘルパーの生活介護を削ろうとしていることです。利用者の負担増、公的給付の抑制を一層進めようという政府に対し「サービスは必要に応じて」「負担は支払い能力に応じて」の原則を私たちは強く迫っていかなければなりません。

2013年度施行をめざす新高齢者医療制度案は201011月以降は論議が止まっていますが、国保の広域化を前提にしながら、財政制度では75歳以上を別枠にするのは変わらない、かつ75歳未満の窓口負担を増やすなど後期高齢者医療制度を改善する案とはなっていません。

○ 暮らしと雇用―格差・貧困・雇用不安の問題は依然として深刻です。

2010

年の雇用者総数は2009年に比べわずかに増加したものの、非正規労働者の割合は統計のある2002年以降最高の34.3%になりました。失業者数も東日本大震災の影響で今後300万人から360万人以上になると予想されています。

生活保護はこの10年で1.6倍に増え、受給者数は1952年以来の200万人に達しました。

国民健康保険の保険料滞納世帯の率は2009年から改善せず20.6%のままでした。正規の保険証をとりあげられた世帯は、2009年と比べて約7万世帯増え159.4万世帯となりました(資格証明書30.7万世帯、短期証128.7万世帯)。所得300万円の4人家族で年間40万円を超す例もあるなど、保険料があまりに高すぎて払えないことが各地で明らかになっています。

このような状態を背景に、

全日本民医連調査の「2010年国保など死亡事例調査」では、民医連の加盟事業所にかかった患者で経済的な困窮が原因で手遅れ死亡したとみられた事例報告は2010年の1年間で71件・24都道府県で発生し、調査を始めた2005年以降最悪となりました

自殺者も13年連続して年間3万人以上という事態が続いています

私たちの展開する「なんでも相談会」活動などの必要性がかってなく高まっています。

○「医療崩壊」に対して、医学部定員を増やすなどの一定の対策は取られたものの、その効果が出るのは10年後とみられ、依然として深刻な医師不足・看護師不足が続いています。

加えて、今回甚大な被害を被った東北地方はもともと医師不足が顕著な地域で、今後さらに医療機関・医師数の減少が予想され、地域医療の存続自体が危ぶまれています。

また、医師不足を補うとしてこれまで医師にしか許されていなかった一部の医療行為が行える「特定看護師」制度創設が提案されています。これは看護師業務の軸足を「療養上の世話」から「診療の補助」に移し、「療養上の世話」は無資格者や家族に担わせようとするものであり、多くの反対の声が上がっています。

保健予防分野ではメタボリック症候群のみに注目した特定健診・特定保健指導は受診者が低迷して制度の失敗が明らかになりつつあります。より国民の健康を正面からとらえた公的健診制度の設計が求められています。

上記情勢を簡潔にまとめれば、東日本大震災・福島原発過酷事故のさなか、いまこそ、憲法9条、25条、13条が輝き、誰もが安心して暮らすことができる新しい社会、医療・社会保障への転換に向けて、激しい綱引きが行われる中、私たちは今年の総代会を迎えているということになります。

*1 震災前の経済産業省予測では、例えば壊滅的な被害を受けた岩手県釜石市は、2030年と2000年を比べると人口は30%強、生産量も25%強減少するとされていた。これに対し東京首都圏は人口は0.8%増だが生産は10%強増加とされている。

*2 当時の自社さ政権村山富一首相は被災者の生活再建について「資本主義社会において自助努力が基本」と言い放って、公的支援の手を差し出そうとしなかった。これに対し作家の小田実、建築学者の早川和男、コープこうべを先頭にした市民の立法運動がおこり1998年に「被災者生活再建支援法」が成立し、その後何度か改定を繰り返されて2007年は全壊住宅再建にもとくに制約なしに200万円が交付されることとなったこの改定は阪神大震災の被害者にさかのぼって適用されることはなく、2007年の能登半島地震に初めて適用された。阪神大震災被害者の市民立法動はなお続いており、東北大震災復興の在り方についても提言を発表している。

*3 日本共産党吉井英勝衆議院議員によると、電力会社は地域独占と総括原価方式で守られた企業で、特に原子力発電所には、以下のように利益を求めて結集する一団とその行動様式があるとされる。①東芝、日立、三菱などの原発メーカー ②鹿島建設、大林組、清水建設などのゼネコン ③素材供給メーカー ④・資金調達をして金利を稼ぐメガバンク ⑤政治資金を受ける政党、政治家 ⑥ 政治で動く官僚  ⑦研究費で大学、広告費でマスコミもものを言えなくする⑧原発立地交付金で自治体をがんじがらめにする。これを「原発利益共同体」と呼ぶ。これに対し、マスコミなどが言う「原子力村」「TTT」(東電、旧通産省、東大原子力研究所)は皮相な表現にとどまる。

*4 米軍がとくに必要としない高規格の軍用道路整備(10億ドル)を米側負担分に盛り込むことで総費用の分母を大きくし、日本側負担を減少させることを日米間で話し合ったとする秘密公電(駐日米大使館の米政府あて公電=2008年12月19日)が、内部告発サイト「ウィキリークス」で暴露された。

5 経済同友会終身幹事 品川正次「アメリカの目で中国を見てはならない」雑誌「世界」20113月特別号

「アメリカの対中国政策の一環としてTPP問題が出てきているということは、中国はもちろん

EUをはじめとする国際社会は理解している。アメリカは中国に対して警戒感をもちつつASEANなどの国々をTPPで糾合し、その枠組みに日本を入れようとする政策的指向を持っている」

「中国の発展を歓迎しそれを援助するという態度か、それともアメリカの目で中国を見てその発展を警戒し敵視するのか。今後の日本にとって重大な岐路に私たちは立っている。アメリカの目で中国を見てはいけない。真の『公共財』である日本国憲法に基づいた平和主義で歩むことこそが求められている」

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