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2011年5月17日 (火)

原子炉の有無と乳癌死亡

福島原発の破綻は底知らずの状況になり、コントロールできない広島原爆数千発分の放射能が極めて長期に国民の健康を破壊し続けるとすれば、日本社会はすっかり荒廃してしまいそうだ。

私達医療従事者としては、当面の対策には何でも応じるという姿勢は保ちながら、冷静にその過程を観察しなければならない。

その時、参考になるのは、世界で最も原発の多い国アメリカでの、原発と国民の健康の関係である。

このことはジェイ・エム・グールドという統計学者の書いた「内部の敵」という本に書かれてある。

グールドは乳癌と原発の関係を突き止めた。

彼によるとアメリカは二つの部分に分けることができる。

原子炉が100マイル以内にある1319の「核のある」郡(カウンティ)の集まりであるアメリカ。

原子炉から遠く離れた1734の「核のない」郡の集まりであるアメリカ。

前者の乳癌死亡は女性10万人当たり年間26人。

後者は22人。

この差4人が原子炉による過剰死亡数である。もちろん誰が放射線で乳癌死したかは区別できないが原子力発電所が国民の健康にどういう影響を与えているか如実にわかる数字である。

乳癌以外の癌、あるいは非癌疾患による過剰死亡も同様の手法で明らかになるはずである。

アメリカの原子炉が頻繁に放射能環境汚染を起こしているかの実例は枚挙にいとまがない。その積み重ねがこの結果だ。

残念ながら、原発に関するグールドの本2冊「死にいたる虚構」と「内部の敵」は日本語訳の商業出版はなされておらず、日本語で読もうとすると誤字も相当に多い、肥田瞬太郎医師らの仮訳の粗末な綴じの冊子しかない。

だが、事実の重みはじかに伝わってくる。

福島原子力発電所の無残な破綻が地域住民に、あるいは日本国民全員にどういう健康影響を与えるかは、今後の課題である。

それはおそらく、上記のまだ破綻はしていない原子炉を持つアメリカの諸郡への影響の比ではあるまい。そのとき、その莫大な健康被害にだれがどういう補償を準備するのか。

それと同時に、一見破綻していなかった時期の54基の原子炉が国民にどういう健康影響をこれまであたえてきたかも、日本の研究者が明らかにしなければならない課題だろう。

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コメント

ちょっと調べていてたどり着きました。
ただ、上述の数値のみでは因果関係があるというのは無理があるように思います。
アメリカ全土で、人種構成や社会階層、出生率等乳癌発癌に関与しうる因子をすべて合わせて複数の箇所にて検討された数値でしょうか?
その辺の数値もあるのでしたらできるだけ詳しく紹介していただけたら、と思います。

投稿: Yuka | 2011年6月 7日 (火) 14時58分

コメントありがとうございました。
この本は、最近になって緑風出版というところから「低線量内部被曝の脅威」と改題されて出版されています。

詳しくはそちらをご覧いただければよいのですが(しかし、ずいぶん高く価格設定されています)、私が読んだ範囲では、おっしゃる通りの弱点があり、この本を根拠に何か主張することはできないように思いました。

「沈黙の春」のようにのちに正しかったことがわかる性質の本で、私たち自身が解明していくべき仮説の提示にとどまっていると思います。

御期待に添えず申し訳ありません。

投稿: 野田浩夫 | 2011年6月 7日 (火) 17時41分

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