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2011年2月 7日 (月)

今年の大学講義・・・幸徳秋水+石川啄木+ウイルヒョウ+宮本常一+リトル・プリンス+イチロー・カワチ+リチャード・ウイルキンソン+マイケル・マーモット+フィデル・カストロ+アマルティア・セン+湯浅 誠+サポルスキー+山本安英+ジョン・ロールズ+佐伯啓思+加藤周一

私が任命されている山口大学医学部非常勤講師は、年に一回90分の特別講義をするだけのものである。それでも、大学教育に正規に参加することは長い間の念願だったので、準備には全力を挙げている。

悲しいことは、教育の素人なので準備したことの半分も伝えられずに持ち時間が終わってしまうことだ。

今年も尻切れトンボで終わり、達成感が得られないまま、その講義を早く忘れようとしている自分がいるのに気付く。

それもまずいので、ここで、今年私の講義に登場した人物の一覧を振りかえって見たい。これだけみると私が語ったことはほとんど文学であることが分かる。

①幸徳秋水:日本人、今年から数えてちょうど100年前に大逆事件で処刑された明治時代最大の社会主義者

②石川啄木:日本人、26歳で結核死する直前に、大逆事件の影響を受けて健康の社会的決定要因の存在を短歌に詠む

③ウイルヒョウ:ドイツ人、26歳の時ポーランドの腸チフス流行を調査し、貧困がその原因だと見抜き、医師は貧困者のための弁護士だという定義を述べる

④宮本常一: 山口県周防大島出身の民俗学者、大阪で小学校の教員だった時、児童の家庭や、その家庭がある地域のことを知らずに教育はできないことを痛感して、民俗学に向かった

⑤リトル・プリンス: 異星人、人間は関わりをもった相手に最後まで責任を取ろうとしたとき、はじめて心で本当のことを見ることができる、すなわち「大事なことは目に見えない」ことを知ることができるという医学生にとってこれ以上大切なことはない秘密をキツネから教えられる

⑥イチロー・カワチ: イチロー・スズキと並ぶ在アメリカの有名日本人、私から見ればほとんど左翼なのに、ハーバードの教授になるには、これほど身のこなしが洗練されていなくてはならないのかと思いしらされた人

⑦リチャード・ウイルキンソン:イギリスの経済学者、人間は平等な社会を作る方向に進化していると喝破する、社会格差が大きくなると、社会全体の健康が上層も下層も含めて低下するという衝撃的な「相対所得仮説」を提唱、これは、イチロー・カワチの「ソーシャル・キャピタル欠乏が健康を悪化させる」という説で裏付けられつつある、格差の大きな社会では上流の人々はソーシャル・キャピタルを破壊して下流の人々の健康を奪いながら、最終的には自らも下流の襲撃に脅える状況に陥ってソーシャル・キャピタルを失うからである

⑧マイケル・マーモット:イギリス社会疫学の第一人者、祖父は東欧のユダヤ人、マーモットの父を連れて無一文で東イギリスにやってきたが、イギリスで生まれた祖父の子ども、すなわちマーモットの叔父たちはあとから生まれるほど、すなわち生活程度が向上するほど身長が高くなり、ある葬式で彼らが並ぶと見事に勾配が出来ていた、これを見て社会的地位の勾配に照応する健康の勾配というアイデアを思いついた、葬式に出ることも研究者にとっては大事なひらめきのチャンスであることを身をもって示した、みんな葬式は欠席しないようにしよう

⑨フィデル・カストロ:スペイン系のキューバ人、青年の時読んだルソー「社会契約論」の教えを守り、徹底的に平等を追求する政治を行った、その結果、貧しいままでもキューバは稀に見る健康社会になった

⑩アマルティア・セン: インド人、真の平等は所得の平等さだけでは決まらず、潜在能力が発揮される平等さで決まるとして、潜在能力の第一の尺度として健康を挙げた、みんなが健康でなければ平等とは言えない、平等でなければ健康でもありえないという関係が成り立つ

⑪湯浅 誠: 日本人、センの「潜在能力という概念」に、「溜め」という考え抜かれた日本語をあてはめ、貧困に苦しむ若い人の社会観を、直観においても科学的正確さにおいても一気に向上させた

⑫山本安英(やすえ):日本の女優、二重の円、丸ということを話す、内側の円は劇場に来た人、外側の円は劇場に来たくても来れない貧しい人、演劇人の声はその双方に届くように発せられなければならないと言った、これはすなわち、病院に来ている人だけでなく、病院に来たくても来れない人、さらには気づかず病気を進ませている社会の人々に医療人の思いは届かねばならないということの比喩である

⑬サポルスキー:アメリカ人、「中年ケニア」とよばれ、切なそうな顔が印象的なハンサムな研究者、アフリカのヒヒ社会にも階層による健康格差があることを発見、しかし、それは生得的なものでなく可塑的なものであり、より平等で健康的なヒヒ社会があることを示して、人間社会の進化に大きな励ましを与えた

(⑭ ジョン・ロールズ):アメリカ人、大著「正義論」の著者、正義の2原理としてⅰ)自由の平等原理、ⅱ)格差原理+機会の平等原理を定めた、社会経済格差が健康格差を生むことは、正義の2原理のうち、ⅱ)格差原理+機会の平等原理に反して、不正義であるとイチロー・カワチらが主張する根拠を築いた)・・・これは時間不足で実際には触れることが出来なかった

⑮佐伯啓思:日本人、比較的冷静な右派コミュニタリアン、「個人の能力は決して個人の努力だけで獲得できたものではないので、個人の能力の成果が個人によって独占されてはならない」ことを明確に述べる点では私と全く意見が合致する

⑯加藤周一:日本人、かって医師をしていたこともある文芸評論家、人間の環境を三層の同心円にたとえた、最も外側が自然、その内側が社会、最も内側は神あるいは倫理であるとした、自然に存在する遊離珪酸SiO2も人間に働きかけるには社会や倫理の層を通過する必要がある、その結果、珪肺という病気も貧困な人にしか発生しないという現象を呈するというのは、そこから派生した私の意見である

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