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2011年2月 2日 (水)

べナー看護論 再録

(2005年当時に作った読書ノートだが、このブログで検索されている数が多いので、再録しておくことにした。)

これまでの看護教育で誰もが到達できるのは、看護師を5段階に分けて3段階目に当たる「一人前ナース」までであり、その上の4段階目の中堅ナースになるには一つの不連続、あるいは飛躍がある。

したがって、だれもが中堅ナースになれるわけではない。

その可能性がある人にそれを成し遂げさせるには、最上位5段階目にいる達人ナースの経験が伝達されることが必要であるようだ。

考えてみると、職業人の成長は概してそういうもので、ありきたりのレベルにはたいていの人が到達可能だが、それを一歩超えるには優れた指導者が居合わせなければならないというものだろう。

そこでベナーさんは達人ナースの仕事振りを観察し、達人がどんな方法でその一歩を飛び越えさせているかという経験則を発見しようとした。

このベナーさんによる達人ナースの行動観察から達人ナースの機能に七つの領域が存在することが発見され、それがベナー看護学になり、「一人前ナース」が「中堅ナース」に成長するのにどういう援助が必要なのかはその一部になった。

看護学というのは、どうやら、そういう経験的学問のようだ。研究スタイルとしては質的研究に属する。

その達人ナース機能の七つの領域のなかで私にとって印象的なのは「診断機能とモニタリング機能」である。 さらにその中で「早期に警告信号を提示する」ということが強調されている。

大事なことは、警告信号をうまく医師に伝達するということである。 達人ナースは理解力の低い医師に、どう自分の警告を受け入れさせるか、さまざまなテクニックを持っていることが、インタビューによって明らかになっている。

振り返ってみると、私自身のプライドを傷つけない上手な言い方で、患者の重大な変化をナースから指摘され、素直に次の行動に動けたおかげで、患者さんも私も危機を免れたことは多々あったような気がする。

(ただ、本当に上手な指摘は、ごく自然に行なわれて記憶に残らない可能性があり、「あのときの指摘はありがたかった」と感謝されるナースは二流なのかもしれない。)

逆に、指摘の仕方がこれ見よがしであるためにかえって医師がうまく次の行動を取れず、せっかくのナースの気付きも生かせず、結局、患者の予後も悪かったというシーンも多々ある。

こういうことも学術的な研究対象になるのだ。

以下は、断片的なメモである。

○ナースの技能の熟練に関するベナーさんの研究にはモデルがある。

それはドレイファス兄弟が行なった飛行機パイロットなどの熟練に関する研究である。 ドレイファス兄弟は熟練者について3点の特徴を示している。

①抽象的原則でなく個人的経験を信頼する

②部分でなく全体を把握する

③観察者でなくのめり込む実践者になる

学生はこの熟練者をめざして初心者、新人、一人前、中堅、達人の5段階を通過していく。 このモデルにしたがってベナーさんはナースの5段階の特徴を明らかにしようと試みたわけである。

初心者、新人、一人前までは、たとえばマニュアルをどれだけ覚えているか、また実践できるかという試験でも評価できるのだが、中堅に達しているかどうかは、その方法では分からない。

中堅ナースはマニュアルを離れてマニュアル以上のことを達成することが求められる。  これを熟練というのである。

*私の好きなドラマERの古いシリーズに登場していた看護師長キャロル・ハサウェイ(ジュリアナ・マルグリーズが好演)のエピソード。

一人で肺癌の臨終のときを迎えた貧しい患者のそばにしゃがんで自ら煙草に火をつけ、吸い込んだ煙をそっと患者に吹きかけてやった。その煙を吸いながら患者は息絶えた。

これこそがエキスパートナースの仕事である。 しかし今のナース界ではこれは規則破りとして激しく糾弾されるのだろう・・・このあたりに、私のナース界に対する失望や絶望がある。

そうした熟練の程度を評価する方法としてベナーさんは「語り=ナラティブによる同僚評価=育成面談」という方法を編み出した。

自分の経験が効果を発揮したと思えるこれぞという症例を、型にはまった症例報告でなく、その人らしさあふれる語りで披露してもらうことを育成面談の中心にすえるという方法である。

これは昇級試験である以上に、そうした語りの多数の蓄積こそが、後輩たちのよい教材になり、その病院の看護と医療全体を変える力を発揮することにつながるということが重視される。

それが聖路加病院では井部俊子さんによって「キャリア開発ラダー」という名前で採用されているのである。 私が周囲に見聞しているナース教育とは相当違うのではないか。

○ベナー:臨床知識開発セミナー

ベナーさんが1980年ごろ各地で開いた企画である。

ベナーさんの講演のあと、10人から15人くらいの小グループに分かれ、熟達したナースから、患者ケアに実際に効果のあった自験例を物語風に発表してもらい、それを参加者が共有する場を持った。 症例に対しては参加者の多くが刺激されて、類似の自分の経験を思い出して発言した。

その結果、「病院のナースが一緒になった実感が持てた」「看護に対する新しい心の高ぶりを覚えた」「ナース間の支援について目を見開かされた」などの感想が寄せられたという。  ただ、このセミナーに必要な条件は小グループの援助者の養成のようだ。最低8時間は事前に講習を受けておく必要があるそうだ。

○ドレファス兄弟 スキルの5段階

(1)第1段階:ビギナー

(2)第2段階:中級者  状況依存(コンテクスト・デペンデント)の要素を加えた規則に従うスキルである。

(3)第3段階:上級者  熟練が進んで,要素の数が増したときに,これに優先順位をつける能力を加えたスキル

(4)第4段階:プロフェッショナル  直感的に全体が見え,将来が見通せ,タイミングを選んで,最良のときに,最善の方法で対処できるスキルである。

(5)第5段階:エキスパート  この段階では,スキルは身について、意識的に判断しなくなる。技能者に「何々の神様」といわれる人がたくさんいるが,そういう人の境地である。  

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