閉塞感の本質(菅「忠米」政権の成立)と解決策「キューバがある!!」 先週末の出張中の出来事・・・①品川正治さんに質問した ②川本隆史さんが出演しているNHK教育TVを見た③時代閉塞について考えた ④最近の中東情勢とポストコロニアル研究の関連に気づいた ⑤病院の経営改善の理由と活かし方他
医療現場から切り離されて4日間も東京での会議に缶詰め状態になるのはそれほど楽しいことではない。何より粗食と同時に多量の酒類にさらされるのは健康によくないだろう。
とはいえ、振り返ると今回の出張は刺激に満ちていた。表題の順序でなく、時間に沿って記録しておきたい。
①全日本民医連会長の藤末氏が会議冒頭のあいさつの中で、中東情勢が南米諸国の民主化に続くものであり、植民地状態から解放された後になおも陥っていた非民主主義的状態からようやく脱する動きだと話していたのに感心した。
植民地状態から脱したのちも、植民地時代に育ったエリートたちによって旧宗主国の文化的支配が続いたり、あるいは反動的に植民地化される以前の伝統にむりやり回帰しようとする運動が生じる状況を研究するのがポストコロニアル研究であるが、藤末氏が言ったのはまさにこの研究の問題意識に直結することだと思えたからである。
もちろん、現実はそのような研究があろうとなかろうと、社会は変わるべき時に変わり大きく前進していくということを証明して、学問の持つ無力さを示して見せたのが今回の事態なのだが、それでもポストコロニアル研究があらかじめ示唆していたことはなお大きな意味があるといえる。
というのは、この地域では自らのアイデンティティをイスラム原理主義に求めるという回帰傾向が強く、君主制を廃したり、実質上の君主制である開発独裁政権を倒すことがそのまま民主主義社会に進むということにつながらない可能性があるからである。
その原因が、この地域の特殊性によるのでなく、実はイスラエルとアメリカの存在によることはその後に聞いた品川正治さんの講演で示唆された。
事態の進んだ結果としてイスラエルが攻撃を仕掛けたり、運動がペルシャ湾の米軍基地撤去を求めたりしたとき、世界は再び戦争に大きく傾斜するだろうということである。
②19日の夕方に品川正治さんの講演を聞く機会があった。品川さんの話すことの中には、財界中枢にいた人として、僕たちの思いもよらない情報が満ち溢れていることは、かってのリーマンショックのときに、大手保険会社AIGだけはアメリカ軍の生命保険を引き受けているので絶対につぶれない、すぐに国家によって救済されるだろうという予想をいち早くされた経験からも明らかである。
今回もそういう話がいっぱいあったが、尖閣事件の背景に、右翼政治家である石垣市の新市長と海上保安庁の緊密な連携による事前の計画があったというのは驚きだった。日本を好戦的な雰囲気に巻き込むようさまざまな策動が続いているのである。もちろんマスコミはその道具として活用されている。
中国の反日デモが、実はマスコミが報道しない田母神氏ら好戦勢力が仕掛ける在日中国大使館への攻撃的なデモへの反応としてその翌日組織されるものでしかないということは知ってはいたが、品川さんの口から話されるとより確実なことのように思えた。
最後に品川さんの本を買ってサインをしてもらっている間に、ここしばらく気になっていることを訊ねてみた。
国力で中国やインドやロシアに追い越される悔しさを煽動する右翼ポピュリストの政権ができてしまって、尖閣や千島で自衛隊を使った小競り合いを起こし、それが戦争に拡大することはないか?
すなわち、かっての先進国日本が追い詰められて小国化するなかで、中国・インド・ロシアなどの新興大国のアメリカに勢力圏の再設定を求める動きに挑発されて、やぶれかぶれに第3次世界大戦の契機を作り出す役を引き受けてしまわないか、という話である。
1941年中国戦線で敗北が決定的になった日本が破れかぶれで米英に宣戦布告したことの繰り返しが起こるのではないかという意味合いもあった。
品川さんは笑って、いくらなんでもそんな馬鹿はいないだろう、といった。
それより9条が本当に試されるのは、アメリカが北朝鮮を攻撃する時だ。
「北朝鮮攻撃には日本としては加担できない、それでも、もし強行するなら日米安保条約を廃棄する」という決意が日本にできなければ、世界的な戦争が拡大するだろうというのが彼の意見だった。話はやや長くなった。講演がもう一度はじまりそうだった。
ふと気づくと後ろにサインを待つ人の列ができていた。穴があったら入りたいくらいの恥ずかしさである。
(著者にサインをしてもらいながら質問するのはルール違反だ!と僕は声を大にして言いたい、自分にも他の人にも)
ともあれ、「9条が日本を支える」、「9条が世界を戦争から救う」、また「日本の高齢化社会が世界の希望になることは可能だ」と、品川さんは僕たちを励ました。
③会議全体の情勢分析の合言葉は、「時代の閉塞感」ということだった。
僕はどうしても石川啄木の「時代閉塞の現状」1911(啄木25歳)という評論を思い出してしまう。自然主義の文学が時代閉塞感の原因を身近な家族制度の中に見つけていたのに対し、啄木は、大逆事件を演出した明治の強権的国家権力こそ主役だと見ていた。彼はそれに気づいたが、時代の閉塞は1945年の敗戦まで深くなる一方だった。
明治期の経済成長が飽和状態に達し、そのあとは誰の目にも失敗が約束されていた帝国主義的侵略を拡大する以外に支配層が道を見つけられなかった時代の閉塞感が啄木が感じていた閉塞感である。
今の閉塞感は、アジアの他の国を圧倒的に引き離してやり遂げた戦後の経済成長が終わって、そのあとに続く時代の閉塞感である。
すなわち日本経済の縮小、格差の拡大・固定化、アメリカの日本収奪の拡大が閉塞感の原因となっている。
アメリカによる日本収奪拡大の最大の兆候はTPPの菅内閣への強制である。強制というより、菅内閣はそれを実施するために作られた傀儡政権といってよい。
それでも、まさに9条の力だと言っていいが、当面は侵略戦争は計画されておらず、中国やロシアからの挑発がなければ、外国への反感をあおって戦争を計画する政府が登場する可能性も少ない。
だから、何千万もの人が戦争で死ななければ終わらなかった啄木の閉塞感に比べると、今の閉塞感はそれほど深刻ではない。しかし、不安感が強いのは、国民を主役にした国家戦略がなく、国民は難破して漂流するかのごとく手をこまねいて生活の悪化にさらされているためである。
では、それを解決するどういう国家戦略があるのかと考えたとき、僕の心に浮かんだのはキューバだった。
貧しくても気持のよい平等な社会、贅沢はどこにもないが医療と福祉と教育だけは豊かにあふれかえっている社会、これは、GDPがどれだけ右肩下がりになろうと達成可能だ、というより、このままでは下がり続ける以外にない日本のGDPを回復する唯一の方向でもある。
「キューバがある!!」、これが時代の閉塞感への私の処方箋である。
逆に考えてみれば、経済成長の停止に直面した明治国家もドイツと組んで凶暴な侵略国家になり、世界的な大殺戮の主役の一人になる以外の選択はあったはずで、どこかでポイント オブ リターンの分岐点があったはずである。最近見たNHK特集からいうと国際連盟脱退時点がそうだったのかもしれない。
④土曜日の夜、粗末な食事の宴会を終えてホテルに帰ると、友人から時ならぬ電話があって「川本隆史さんが教育TV出演中」という緊急連絡だった。
確かに川本さんだ。開発途上国の学校に援助をしているという若い女性歌手と対談して、社会正義とは何かを分かりやすく話している。
最後に司会者から、厳しい現実を前に倫理学など役に立たないのでは、という質問をされて、学問と現実がお互いに浸透しあいながら均衡点を見つけていくという、反省的均衡 reflective equilibriumのはなし、すなわちロールズ哲学の最も重要なポイントをその言葉を使わずに丁寧に説明していた。
⑤帰りの飛行機の中では、直前に買った姜尚中「オリエンタリズムの彼方へ――近代文化批判 」岩波現代文庫と佐々木力「21世紀のマルクス主義」ちくま学芸文庫を読み始める。
どちらも週刊誌感覚で読める気楽な本であったので、退屈な時間をうまくつぶすことができた。
⑥TPP trans-pacific partnership環太平洋戦略的経済連携協定は、結局はアメリカの国家戦略に過ぎない。これへの参加を「平成の開国」だと話している菅首相は、やはりアメリカのエージェントである。
アメリカのスパイが首相をしている国、というとまがまがしいが、日本の戦後史を貫徹する特徴だったのかもしれない。ただ、菅氏の場合、盟友鳩山前首相と小沢被告の追放をアメリカから密かに命じられ、それを実行して首相になったことが次第に明らかになってきたので、陰惨ぶりが著しいのである。
⑦ところで、2010年度になって、多くの病院の経営が好転している。これは2010.4の診療報酬改定効果だが、忘れられているのは、なぜ診療報酬改定が病院に有利なのように行われたかということである。
「医療崩壊を食い止めろ」という本田先生や私たちの運動が国民の心をつかんで、政府を動かしていたからである。そこを見ないで、診療報酬改定にうまく適応したから経営を改善させることができたと病院経営者が思うなら、その人には未来はないだろう。
と、同時に、この経営改善は、国民の運動で勝ち取ったものだから、医療の充実に生かす、国民や医療従事者に還元する方向で利用するという意識的な姿勢が求められているということでもある。
| 固定リンク
コメント