佐々木力「21世紀のマルクス主義」ちくま学芸文庫2006
日本共産党に敵対的でないトロツキイ主義者(いってみれば マルクス-レーニン―トロツキイ マルクス主義者)の著書。
「あとがき」には、宮本顕治の文学論がトロツキイ文学論を支持するものであり、日本共産党がスターリン主義的過去と全面的に決別し、古典的マルクス主義に由来する真正のオーソドックスな思想の原点に回帰する日も近く、その時には日本の若者が再び大挙してマルクス主義思想の旗のもとに結集するだろうという、穏やかな希望までもが述べられている。日本共産党はこれをそのままよしとはしないだろうが、まったく妥当性をもたないとまでは言えないだろう。
この本の結論に当たる第5章「反帝国主義=社会主義の東アジアをめざして」でも、日米安保条約にもとづくアメリカ帝国主義との軍事同盟を廃棄し、憲法9条を軸に「東アジア共同体」のなかで生きる日本の将来を著者が願っているのが分かる。それはとても良い。
引用・紹介される人物も、たとえば子安宣邦、たとえばガヤトリ・C・スピヴァク、たとえばジョン・レノンなど多彩で、その配列も問題ない。
大体においてそれほど悪くない本、なのだろう。
しかし、いろんな人の言葉の断片をモザイク状に切り貼りして全体を構成する手法のせいなのか、文体の問題なのか、著者自身には好感を持てないまま読み終わった。
特に第2章の扉とその裏に元気で演説する1918年のレーニンと、何度もの脳梗塞再発後に言葉もしゃべれなくなった1923年の病身の彼の写真を対照的に置き、そこに「歴史の隠喩を見る」などと書いているのを読むと、大げさを通りこしてインチキくささを感じてしまう。
著者がかって岩波新書「科学論入門」で看護婦さんに分かりやすく科学論の手ほどきをしたのに好感をもったものだが。
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