中西新太郎講演と桜庭一樹「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」角川文庫2009
雑誌「民医連医療」2010年10月号に、横浜市立大学の中西新太郎さんの講演記録が掲載されている。
「生きづらさの中の若者たち」をどう理解すればよいのか、という趣旨のお話である。
子供の世界には小学校から始まる厳しいカースト制がある。
その中で、若者は自分が位置する序列を読みながら毎日を危うさに満ちて生きていく。
格差の激しくなる一方の現代社会の中で生きづらさはかってなく深くなっている。
それがよくわかる好講演記録である。
その講演の冒頭に小学校高学年から中学生に抜群の支持を得ているライト・ノヴェル、桜庭一樹「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」が取り上げられている。
さっそく買いに出かけた。読み始めるとあっという間に読んでしまった。
1971年鳥取県米子市生まれの女流作家が33歳の時に書いた作品である。作家の故郷近くの境港市が舞台になっている。
子どもたちは何とか生き延びることに成功すればようやく大人になることのできるサバイバー(生き残りのために闘うもの)としてこの社会に存在している。
サバイバルを全うするには、大人の武器としての実弾を身につける必要があるのだ。
子ども用の武器としての「砂糖菓子の弾丸」=ロリポップしか持てない子は大人になる前に殺されることもある。
しかし、その「砂糖菓子の弾丸」=ロリポップほど僕たちの心をひきつけるものはない。それは「神様」の姿を見たようにも思わせるものだ。
その認識のリアルさと悲しさが最後に洪水のように押し寄せてくる奇妙で切ない作品である。
自分と同じ中国山地の空気を吸って生き延びてきたこの若い作家への親近感を抱いた。
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コメント
先生のことなのでもう読まれたかも知れませんが、『希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想』 (光文社新書) [新書]おもしろかったです。中西のこともとりあげられていました。
投稿: とおりすがりの民医連職員 | 2010年10月22日 (金) 13時02分
コメントありがとうございました。その本は知らなかったので早速読んでみます。
投稿: 野田浩夫 | 2010年10月22日 (金) 18時01分