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2010年9月29日 (水)

ソーシャル・キャピタルの遺産

僕の母は2001年の冬に72歳で突然死んだが、それは糖尿病の諸合併症の結果だった。

最後の数年は、眼の手術を受けたり、血液透析に通ったりしていた。

過疎地だったので、透析のできる病院への通院には片道小一時間かかっていた。

その送迎は退職した小学校長だった父がつきっきりだった。

母はほとんど独学で覚えただろう踊りの指導にも忙しかった。透析を受けながら、夜は車椅子に乗って何箇所もの会を指導に出かけていた。踊りの会の発展のおかげで、明治初期に広島人が移住して生まれた北海道の町、北広島の記念の式典にも招待されたりした。

その会の送迎も父が一人で引き受けていた。母が帰るまで車の中で待つことを繰り返しながら、踊りの発表会があれば、みんなを車に乗せて出かけ、ビデオを撮り、長時間かかってダビングして会員さんに配る役目もして重宝されていた。

母の死後一人暮らしになった父は、母がいた時と同じように踊りの会の世話を続けてきた。もちろん、ほかの公務もできたが、この9年間父を支えたのはその会員さんたちとの交流である。

息子は医者になり、娘は東大工学部卒の三菱重工の技術者に嫁いだが、結局老後の父を支えたのは地域の力だった。

逆にいえば、何の学歴も教養もなかった母は、父が約10年は一人暮らしできるほどのソーシャル・キャピタルを彼に残して死んだと言うことができるだろう。

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