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2010年9月 2日 (木)

高橋晄正氏について

もう誰も覚えている人はいないだろうが、1970年当時、医学部の全共闘派から絶大な人気があった医師に高橋晄正という人がいた。1918年―2004年の人で、もう亡くなっている。東大の講師をしていた。

著書に『新しい医学への道』1964、『現代医学概論』1968、『社会の中の医学』1969などがある。どれか一冊を読んだ記憶がある。全く影響は受けなかったのだが。

僕はこの人と直接話したことが一回だけある。僕のいた大学の大学祭に講演にやってきたからである。

そのころ僕が学生自治会で手がけていたのは無医地区になっている離島での巡回健診だったが、その結果を展示していたら、高橋氏が見に来て、「この離島の人は幸せだ」と言った。

当然のこと、僕は巡回健診があることがまだ幸せで、それもない離島が日本には多くあるのだということを教えられたと思った。

「しかし、巡回健診だけでは不十分ではないでしょうか。きちんと常勤の医者がいなくては」と答えてみると

「いや、医者から被害を受けないことが幸せだと言っているんだよ」と高橋氏は言い切った。

彼はそのころグロンサンやアリナミンという薬が、効果もないのに医師のお墨付きで莫大な売り上げを挙げていることに反対して、薬の効果を科学的に判定する必要があるという正しい主張をしていたのだが、実際はそこを通り越して、一般の医師は非科学的な存在で社会に有害だという認識にまで突き進んでいたのである。

僕は不意を突かれて声も出なくなってしまった。

医学生の中では、日本でいちばん有名な医師が理解のできないことを呟いているのである。僕のほうが頭が悪すぎるのだろうか?

今から思うに高橋氏は余りにも視野が狭かった。東大で製薬企業と癒着してそのぼろもうけの手伝いをしていた非科学的な権威たちに対する反感が極端に強く、医師の存在全体を否定してしまったのである。

医師がそばにいることでの住民の安心感や、手探りながら住民に必要な医療を住民と一緒になって構築していく医師の生きがいなど彼には見えなかった。そういうものが見えないことで、彼は全共闘派の学生の英雄になった。

全共闘運動の衰退とともに彼の存在感も薄れ、晩年は漢方医学を批判していたらしいが、今では誰も彼がいたことさえ思い出そうとはしなくなった。

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