2010.9.15 朝日新聞読者投稿欄に中村 佑さん
民主党代表選の報道一色の新聞の中で、どれだけの人が気がついただろうか。
僕も友人に言われるまでは気づかなかったのだ。9月15日の朝日新聞「声」欄に、下関市在住の中村 佑さんの投稿が掲載されていた。ひっそりと。
中村さんは言うまでもなく、2001年9月11日の世界貿易センタービル爆破のとき、ビル内にいて30歳で死亡した中村匠也さんの父である。
家族の中では決して風化するはずのないその事について「あの事件を風化させないために」という大義をふりかざして取材するメディアがいる。
そういう人たちは、総選挙や今回のような選挙があれば容易に「大義」を忘れる。しかし、大義を振りかざさない記者たちがいて、かれらは自ら癌を患った話や、日本中を尋ねて平和のために亡くなった人々の痛苦のドキュメントを書いた話を聞かせてくれる。
そういう記者の一人が、今年の9月11日、取材ではなく中村さんにl「変わりはないですか」と電話をくれ、重い気分でその日を迎えていた中村さんの心を一瞬弾ませたというのである。
口を糊するための仕事を通じてでも、人間と人間は結びつくことができる。
組織が抱えているある交渉事において、一つの仮定される事態にどう対応すればこちらが有利になるか、などという、私から見れば本末転倒としか思えない議論に付き合わされたあとの深夜に中村さんの文章をもう一度読み直すと、心に沁み入ってくるものがあった。
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