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2010年9月13日 (月)

聴涛 弘「レーニンの再検証―変革者としての真実」大月書店2010

著者前作の「マルクスの弁明」が面白かったので、期待して読んだが、やや期待はずれだった。不破さんの批判もあってあまり読まれなくなった「国家と革命」に焦点を当てたり、「帝国主義論」の現在での価値について論じているのは意欲的だが、これまで語られてきたことが繰り返されているだけ、という気がする。
*「帝国主義論」の必要性はレーニンより先にブハーリンが気付いて論文を書いた、ということは初めて知った。
*関連して調べたことだが「金融資本論」を書いたヒルファーディングは、死ぬまで診療を続けた現役の医師だったことに興味を持った。岩波文庫で「金融資本論」を買ってみることにした。
1905年と1917年の革命のときのレーニンの行動が丹念に追われているので知識の整理にはなる。
またトロツキーを無理やりに否定する姿勢がなく、評価すべきところは評価するというところはよい。だが、トロツキー自体がタブーなく読まれ始めると実はつまらないという印象なので、このことはそれほどポイントは稼がない。
読むべきところは最終章の世界情勢分析だろう。
EUを理想的な地域共同体と論じる向きに対して、侵略的な軍事力を維持している存在だと指摘する。EUは「ルールある資本主義」の一例であっても、戦争協力と社会保障を交換条件にした大西洋憲章による旧福祉国家の限界を打ち破る新しい福祉国家ではないということだ。これは大切な指摘である。
「ソ連が崩壊したので世界民主共和国が現実に可能になったと論じる人もいる」というのは、岩波新書「世界共和国へ」の柄谷行人への批判だと思えるが、柄谷がその可能性をずっと遠いところにおいている、というより現実化を本人も確信していないので、若干的外れという気がする。
アジア共同体のもつ幻想性の指摘は正しいと思える。資本が主導するアジア共同体には何の展望もない。アジア各国に起こる反核、脱軍事同盟、そして協同組合運動の連携が前提にある場合にのみ、アジア共同体の展望が開けると私は思っている。
本の最後にマルクスの「賃労働と資本」などを学習する必要性が強調されているが、「賃労働と資本」は労働と労働力の混同があるなど資本論以前の著作としての弱点が大きい作品で、いまや学ぶ意味はないと不破さんが言っているのと食い違う。
共産党幹部の著作も自由に出版されているのだろうが、ある程度の相互点検は必要ではないかと心配になるのだがどうだろうか。

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