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2010年9月10日 (金)

柄谷行人「世界史の構造」岩波書店2010: 第三次世界大戦の予想

横浜市金沢区で開かれた民医連事務幹部のための研修会に出かけた。前泊して翌日午前中の3時間を割り当てられたセッションの講師を勤めるためである。

午後6時過ぎに着いた羽田空港から、京急で三崎口方面に行き、金沢八景駅で金沢シーサイドラインという玩具のような新都市交通に乗り換えて、8時前に会場のホテルに着いたが辺りは何もない工場地帯だった。横浜のウォーターフロントは侘びしい。そういうところに22階建てのホテルが、もっぱら研修目的のためにそびえているのである。

ホテル内の変に立派過ぎるレストランで一人で食事をするのが嫌だったので、コンビニを探しに歩いても、まったく人影も店の影もないところだった。

部屋の窓からは東京湾と対岸の房総半島が見える。その感じは、宇部市のビルから見る周防灘と国東半島に似ている。

というわけで、そういう状況で空腹を抱えながら上記の本を読み終えた次第である。

著者の前作「トランスクリティーク」に比べてとても読みやすく、たとえば「超越論」なんて訳の分からなかった用語も分かりやすく説明してある(349ページ)。

この本の中心的な主張は、399―400ページの、マルクスにとって、社会主義は何よりも道徳的問題であり、その本質はカントの「他者を手段としてのみならず同時に目的として扱え」という道徳法則と全く同じだという所だろう。

そう考えると、《資本論による資本主義社会の科学的な解明―道徳的な要請―革命論》という社会主義の構造が無理なく理解できるのである。

そしてそれは、《社会疫学による現代の健康の科学的解明―健康権思想―医療運動》という民医連の構造の整理につながる。

もちろん、生産様式に注目して生産力―生産関係を土台として考える従来の史的唯物論だけに頼るのでなく、交換様式にも注目して資本―国家―国民の固く結びついた構造を経済的土台として考える方法のあることも分かりやすく示されている。そこでは国家が資本の上にそびえる上部構造ではなく、資本と同一平面にある、相対的に独立した土台の一部分だとする点が重要である。

民医連がめざす、非営利共同セクター(第3セクター)の広範な形成を通して、大企業(第2セクター)―国家(第1セクター)―地域社会(第0セクター?)それぞれに必要な影響を与え、社会を変革するという目論見も、資本―国家―国民が三角形を作って同一平面にあるという柄谷の言う土台を前提に考えると無理なく理解できるのである。

しかし、翌日の講演は、この本を読み終えたばかりのまだ十分に整理されていない頭で、民医連の医療理念について語ってしまったので、散々の出来だった。

「途中からチンプンカンプンみになった」というありがたい感想まで頂いて、しょげながら帰ってきた。

教訓は、自分が講師になる前の日には柄谷行人を読んではいけない、そういう時は不破哲三を読め、ということである。

*そのほか、この本で興味深かったところを挙げると

○429―430ページ 中国とインドが発展を終わり完全に資本主義の内部に取り込まれてしまうと、世界には資本主義の外部がなくなり、資本主義が終末に直面するだろうという予想。

*アフリカがあるではないか、というのは屁理屈で、いずれにしろ、過剰に収奪すべき資本主義の外部がなくなる時代は来るのである。

そのとき、自然に資本主義後の世界に移行するだろうか?柄谷はそうは考えない。資本と国家は命がけで生き残りを図ろうとする。

それは戦争である。

もう一度、世界を中核と半周辺と周辺に再編成しようという試みである。

二度の大戦もそうして起きた。三度目の大戦もかならず始まろうとする。そう書いていないが、そう読むしかない。

第三次大戦に直面して、世界を戦争から救い、資本主義後の世界に導く主役は誰か、という問いへの答えも書いてある。

それは国連である。国連の変革が間に合わなければ、資本主義延命のための仕切りなおしの世界戦争は必ず起こる。

○463ページ―465ページ

国連については①軍事 ②経済 ③医療・文化・環境の3領域にわけ、国家や資本に関係の薄い③の領域が今後の展望を指し示しているとする。

①と②が③のようになるように各国の抵抗運動が結集して国連を変えていくことが必要で、逆にそのような国連改革だけが各国の抵抗運動の連帯を可能にするのである。それが世界同時革命そのものである。何れも失敗した1848年の世界同時革命、1968年の世界同時革命ともまったく違った、暴力を伴わない、静かな革命のイメージがそこに描かれる。

国連のあり方を論じるなかでも③の領域の代表としてWHOが挙げられている点に私は注目した。WHOこそが柄谷にとっても未来を語る存在なのである。それは、健康格差をなくすためにマイケル・マーモットを委員長にして「Closing  the gap in a generation」を2008年に発表したWHOなのである。

医療が、したがって民医連が、変化の先駆者とならなければならないという要請はここでもまた示されているといってよい。

柄谷は民医連にエールを送っているようだ。

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