不破哲三「マルクスは生きている」平凡社新書2009・・・1940年日独伊三国同盟にソ連が加わり四国同盟に発展することをスターリンは承諾していた
昨年、若者向きの本として出版され、それなりに売れて評判にもなった本。その時は買わないでいたのだが、2010年8月8日、他にめぼしいものがなかった東京・浜松町の書店で、平凡社ライブラリー「藤田省三セレクション」2010と一緒に買った。
新書なので叙述の工夫は感じられるが、とくに新しい発見というものはない。それでも、小さい本の中に最新の事柄が良く取り入れられているのには感心する。
唯物論と弁証法の章では、エンゲルスの主張する自然の階層性、レーニンの「電子といえど汲みつくされることはない」という見解、湯川秀樹の中間子の発見、武谷三男・坂田昌一の貢献、そして小林―益川理論に続く唯物論と弁証法と物理学の系譜がスケッチされる。日本共産党と少し距離があった様子の武谷三男を高く評価しているのはとても公平な姿勢だと思う。
経済学の章では、マルクスがもっと生きていれば完成させたであろう恐慌論の全体像がわかりやすく示される。これについては、マルクスの可能性を本当に探求しているのは不破さんだということを述べた、このブログ内の別の記事で私も触れている。
革命論の章では、スターリンの変質が詳細に述べられている。とくに1940年、日独伊三国同盟にソ連が加わり四国同盟に発展することをスターリンが承諾していたという事実が重要である。これは、ヒトラーの方針転換で現実化しなかったが、もし成立していれば、世界大戦後に最悪の非人間的世界が生まれていた可能性がある点で、戦慄的である。
不破さんの著作を追跡している者にとっては、そういう意味で相当に興味深い本だが、記述がやや平板なので、その面白さが読者にきちんと届いているかどうかは疑問である。
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