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2010年7月13日 (火)

参議院選挙後の情勢 いまこそ『正義』を語ろう

勤務医でありながら、ある開業医団体の理事をして10年以上になる。理事のうち、何人かが順番で毎月の会報に「主張」を書いている。今回8月号の当番は私である。

もちろん原稿がそのまま「主張」になるわけではない。理事会の承認を経て掲載される。

実は8月に理事を退くので、今回が私の書く最後の「主張」である。そこでその原稿をここに転載しておくことにした。

後で気づいたが、全体として雑誌「」8月号の渡辺 治論文にそうとう似ている。自分でもびっくりしたくらいだが、これはこの間ずっと渡辺さんの情勢分析にぴったりくっつく感じで学んできたので、ついに同じようなことが考えられるようになったものと思われる。渡辺さんの情勢分析がぶれず、その都度の細かい変化にも対応して発展しているので、後から行くものにとってはある意味学びやすいとも言える。というわけで物まねではないことを声を大にして言いたい。・・・いや、その全体がものまね、と言われてしまうか?それはそれで結構だが。

題:「今こそ『正義』の話をしよう」


7月11日の参議院選挙は、民主党の後退、自民党のある程度の復調という結果で終わりました。昨年8月30日の総選挙による政権交代の興奮や期待も褪め、結局残ったのは二大政党の消費税大増税での一致でした。

鳩山内閣から菅内閣への交替は、昨年の政権交代の実質的終了、小泉構造改革路線の復活だったと考えられます。

鳩山前首相は、新自由主義的な本質は持ちながらも、昨年の政権交代がどういう国民の期待に支えられているのかを最もよく自覚していたために、沖縄・普天間基地の国外・県外移設、子ども手当て・公立高校の授業料無償化・農家への個別所得補償制度などの福祉マニフェストの実現にこだわりました。

これがアメリカや財界の不安と猛反発を呼び、鳩山氏はついに心を折られ「転向」して退陣する結果となりました。同時に、田中角栄型の利益誘導政治の復活をめざして小泉構造改革に反対していた小沢氏も退けたため、後継の菅内閣はまさに純粋な新自由主義的な政権となってしまいました。

その象徴としての財界への約束が消費税増税、法人税減税構想の発表でした。アメリカには日米合意の深化を約束しました。同時に枝野幹事長は、民主党の憲法調査会の再開を指示して改憲の方向に足を踏み出しました。

最悪の反動政治がここで始まろうとしています。菅首相自身は二世政治家でもなく、副総理時代に湯浅誠氏を内閣参与に起用するなど市民運動出身の政治家らしさをもっていましたが、いまや自己の役割を極めて明瞭に把握して行動しようとしています。

そして、参議院選挙の結果といえば、最悪としかいいようがありません。リストラ・失業・倒産におびえる勤労者・非正規労働者、要介護老人を抱える世帯の人々が、自分とは利益の相反する大都市のエリート中間層と一緒になって、こぞって新自由主義的な民主党と自民党・「みんなの党」を支持しました。マルクスの著作「ルイ・ボナパルトのブリュメール18日」(1852年)を思い出すまでもなく、選挙民が自分を抑圧・迫害する者に自分を代表させてしまうことはこれまでも多々ありました。小泉内閣が長期政権になったのもその例ですが、今回はより深刻な事態です。

鳩山内閣時代に約束されていた後期高齢者医療制度の廃止、障害者自立支援法の廃止が骨抜き・改悪されようとするのは必至です。6月14日に福岡高裁で違憲判決の出た生活保護の老齢加算廃止もただちに被告北九州市によって上告され、政府によっても見直されることはないと思えます。今後は、とりわけ「地域主権」の名で地域の自己責任による構造改革の執行が押しつけられ、一層の医療・介護・福祉・教育の切り捨てが進められていくのが確実です。

主戦場が地域に向かう中、山口○○協会の役割にはきわめて重大なものがあります。これまでも療養病棟廃止政策や不合理な診療報酬改定について常に実証的な調査を行なって具体的改善策を県民や当局に提案してきましたが、今後はこれまでに増して地域の中で真価を発揮しなくてはなりません。

自民党や民主党などの権力にすり寄ることなく、県民と開業医の利益を守って一歩一歩進んでいくことができるのは○○協会だけだということを改めて訴えたいと思います。

いま、書店にはマイケル・サンデル教授の「これからの『正義』の話をしよう」(早川書房)という本が平積みされています。新自由主義に対抗するには『正義』について語ることが必要であることがまさに市民の常識になりつつあるといえます。○○協会もまた、医療・介護・福祉の『正義』について必死に語るべき時です。

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