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2010年3月26日 (金)

「マーモット・レビュー」(2010年2月発表)エグゼクティブ・サマリー仮訳#1

 2008年に最終報告を出したWHO「健康の社会的要因」委員会(CSDH)の委員長だったマイケル・マーモットさんが、イギリスの保健省の援助のもとに設置された委員会から2010年2月に新たなレポートを発表した。「マーモット・レビュー」と言われるものである。さすがにまだ日本語訳がみあたらないので、エグゼクティブ・サマリーの仮訳を自分で作ることにした。作業の進行とともに更新を続けていく予定である。

web上では[Marmot,fair society,healthy lives]で検索すれば容易にPDF版を入手できるので、原文で読みたい人はぜひそちらにあたって頂きたい。

なお、このレビューではhealth inequity 健康の不公平 という用語は用いられず、health inequality 「健康の不平等」 というより直接的な表現が用いられている。よそいきのWHOでなく、ホームグラウンドで書いているという事情によるものだと推測される。


1ページ
「公正な社会にこそ健康的な生活はある」

マーモット・レビュー
エグゼクティブ・サマリー

イングランドにおける2010年以降の健康不平等に対する戦略的レビュー
2ページ
「私とともに立ち上がり
『悲惨の組織』と闘おう」
 パブロ・ネルーダ
*註(野田)ネルーダは有名なチリの共産主義者詩人。
上記の詩は1952年に出版した「the Captain's verses」(「船長の歌」?)のなかにあるものである。
この詩集はイタリアのカプリ島に3番目の妻と一緒に亡命していたころのもので、その時のことは映画「イル・ポスティーノ」に描かれた。
この詩の日本語訳が、たとえば大島博光氏などによって訳されているかどうかはざっと調べたところわからなかった。
しかし、冒頭にネルーダの詩を引用するのはイギリスにおいても相当大胆なことではないのだろうか?
3ページ
「議長からの覚書」
社会の中で社会的経済的に高い位置にいる人ほど人生上のチャンスのより大きな喜びを手に入れることができ、華々しい生活に導かれる幸運に恵まれる。彼らはより健康でもある。この二つのことは関連している:社会的に、経済的に恵まれれば恵まれるほど健康も良好となる。この社会的状態と健康の間にある関連は、決して健康に関する「真の」関連群―「ヘルスケア(医療保健)と不健康な行動」など―の「脚注」という程度のものではなく、まさに中心の焦点となるべきものである。
社会的状態の一つの尺度を考えてみよう:教育はどうだろう。大学卒の人たちはそうではない人たちに比べてより健康であるし、長く生きるのである。30歳以上の人々にとって学歴がない人たちみんなの死亡率が、学歴がある人たちの死亡率まで減ることがあれば、毎年20万2千人の早死にが減るのである。確かに、これは懸命に努力するに値するゴールである。
今は少数の人がエンジョイしている人生のチャンスをもっと多くの人に与えることによって目覚ましい改善を達成するには長い道をいかなければならないことは、このレビューに関係した私たちみんなに見えていることである。このような努力は直接生命を救うより広範になるだろう。そうなれば、社会にいる人々はいろんな経路で良くなっていく:生まれ、育ち、生き、働き、年をとることが起こる環境の中においてである。人びとは改善された福祉、よりよい精神衛生、障害による不利がより少なくなていることを理解するだろうし、子どもたちは生き生きし、みんな持続可能な仲の良いコミュニティに暮らせるだろう。
私はWHOの「健康の社会的決定要因委員会」の議長を勤めた。ある評論家は委員会の報告に「エビデンスを備えたイデオロギー」というレッテルを貼った。同じような値札はこのレビューにも貼り付けられるだろうが、私たちは喜んでそれを受け入れるものである。私たちは一つのイデオロギー的な位置にいる:合理的な方法で回避できるはずの健康の不平等が残っているのであれば、それは不公正というものである。それらを正すことは社会正義にかかわる事柄である。エビデンスがどうのこうのではない。意図は良いというのも不十分である。
このレビューの主要な任務はイングランドにおける健康の不平等戦略の発展のためにエビデンスを集め、アドバイスすることであった。私たちは9つの任務グループに助けられた。彼らは素早く徹底的に働いて、研究したほうが良いと思えることのエビデンスを一緒にもたらしてくれた。彼らのレポートはwww.ucl.ac.uk/gheg/marmotreview/Documentsで利用できる。これらのレポートはこの報告の第2章でエビデンスのまとめの基礎を提供し、第4章で政策上の勧告を示している
もちろん、健康の不平等というのは新しい考えではない。私たちは19世紀、20世紀の問題の解決に努力した巨人たちの肩の上に立っている。最近の経験からの学びは第3章の基礎を作っている。
私たちは科学的な文献に濃厚に頼りながら、それだけが私たちの考慮するエビデンスのタイプとしなかった。私たちは利害関係者を広く調整し、彼らの内省と経験から学ぶことに挑戦した。実際のところ、このレビュー過程のエキサイティングな特徴は、私たちが中央政府や、右から左を横断する諸政党、地方政府、ヘルスサービス機関、第3セクターや民間セクターに雇われているように思える関わり方や関心のレベルの深さなのである。変化を起こそうというこれらのパートナーとの関わりは第5章の主題である。
問題の性質と大きさを知り、格差を作り出すものが何かを理解することは健康の配分をより公平にするための行動の心臓部分である。そこで私たちは第5章と付属の2で健康の社会的決定要因と健康の不平等のモニタリングの枠組みを提案する。
最初から、私たちは財政的にコストのかかりすぎる勧告になってしまうのではないということを恐れていた。経済的な計算が決定的だということが私たちに押しつけられていた。このことに対する私たちのアプローチは、何もしなければどれだけコストがかかるかを見るということであった。その数字は、第2章に再生されているように途方もないものである。何もしないことは経済的に選択肢たりえないものである。人間コストとしてもまた莫大である―イングランドでは毎年人が早く死ぬという形で健康の不平等に対して250万年も人生が失われている可能性がある。
私たちは二人の健康省長官に非常に感謝している:アラン・ジョンソンはこのレビューを始めるという計画を持ってくれたことに、アンディ・バーンハムには熱意をもってそれを継続してくれたことに。WHOの健康の社会的決定要因委員会が2008年8月に報告を発表したとき、アラン・ジョンソンはその成果をイングランドに適用できるかどうか尋ねてきた。この報告は彼の企図への私たちの答えである。
このレビューは賢明な委員の皆さんによって方向づけられた。委員の皆さんは知識と経験と意見を与えてくれた。この作業がをひたすら活発になったののは事務局がそのその知識と私心のない献身を提供してくれたからである。私は双方にとても感謝している;いずれにしても、健康省、研究委員会、作業グループの優秀な同僚たちとの、相談や議論を通じて、多くの人を巻き込んだ。その人たちがこのレビュー全体を通じて反映されている彼らの影響を見つけることを私は期待する。
私は世界委員会を始めたときパブロ・ネルーダを引用した。彼を引用することは今なおふさわしいと思える・
’Rise up with me against the organaization  of misery'
私とともに立ち上がり『悲惨の組織』と闘おう」

マイケル・マーモット(議長)

4ページ

「考慮事項 タームズ オブ リファレンス」

2008年11月に、サー・マイケル・マーモット教授は健康省長官に2010年からのイングランドにおける最も効果的なエビデンス・べーストな健康不公平改善戦略を提案する独立したレビュー(概説)を議長になってまとめてほしいと依頼された。その戦略は≪健康の不平等の社会的要因≫に着目して解決しようという政策と企画を備えるものだった。

レビューには4つの任務があった。

1 イングランドで直面する健康の不平等に対し、将来の政策と行動を下支えするための最も関連あるエビデンスを同定する

2 このエビデンスがどうしたら実行に移せるかを示す

3 乳児死亡率や平均寿命に標的を置いた最新のPSAの経験を踏まえて、可能な目標と方法をアドバイスする

4 2010年以降の健康の不公平戦略の発展に貢献するようなレビューの成果を公刊する

「お断り・免責事項(disclaimer)」

この出版物はイングランドにおける2010年以降の健康の不公平に関する戦略的レビュー(議長はサー・マイケル・マーモット教授)の集団的見解を収録しているが、必ずしも健康省の決定や公式政策を示しているものではない。

個々の組織、会社、工業生産物への言及は、同様の性格の他のものに比べて、健康省が保証や推薦を与えているものではない。

5ページ

謝辞

このレビューの研究は委員会の議長と委員によって擁護され 、教えられ導かれた。

以下省略

6ページ

委員名簿

議長 マイケル・マーモット

以下省略

7ページ

の一覧

第1図(11ページ) 平均寿命と健康寿命(障害のない寿命)、地区の所得レベル別の人々、イングランド。

第2図(11ページ)社会経済的階層別の年齢補正死亡率、東北地域と南西地域、25歳から64歳までの男性、2001年-2003年

第3図(13ページ)貧困度5分位分類における総合的健康質問紙(GHQ)でスコア4以上の人の年齢補正パーセンテージ、女性、2001年と2006年

第4図(13ページ)概念枠組み図

第5図(14ページ)人生コースを横断しての行動

第6図(17ページ)1970年英国コ―ホート(追跡)研究における小児の早期の認知能力発達における不平等

第7図(19ページ)2001年に記録された学歴別の、標準化された限定疾患の有病率、2001年、16-74歳

第8図 (21ページ)1981年の国勢調査で記録された社会階層と雇用状態別のイングランドとウエールズの男性、1981-92年の死亡率

第9図(23ページ)5分位別の直接税と間接税、およぼその総所得中の割合2007/2008

第10図(25ページ)貧困度別にもっとも好ましくない環境の地域で暮らした人口数 2001-2006

第11図(27ページ)10-11歳の小児における地域別、貧困の5分位別品頻度(95パーセンタイル以上)2007/2008

イングランドにおける2010年以降の健康不平等への戦略的レビューは、この公刊物に含まれる情報の確かさを保証するためにあらゆる根拠ある対策を取っている。しかしこの出版物は表現や含意についていかなる類の保証つきで配布されるわけではない。この出版物の解釈と使用の責任は読者に任されている。どんな場合でも、イングランドにおける2010年以降の健康不平等への戦略的レビューはその使用から生じる損害について法的責任を負うものではない。

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