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2010年3月15日 (月)

イチロー・カワチに質問した!―日福大 健康社会研究センター 国際シンポジウム

3月14日、上記の企画でイチロー・カワチ氏の講演があるというので、ちょうどいま名古屋で内科研修をしている二男と一緒に名古屋国際会議場に出かけた。

健康社会研究センターは近藤克則氏が主宰しており、その上司は副学長になった二木 立氏で、その二人のあいさつからシンポジウムは始まった。

二木先生は相変わらず尖り、近藤氏はそつがない感じ。

さて、イチロー・カワチは、10歳で日本を出て、その後米国で医学部を卒業、現在はハーバード大学の公衆衛生大学院教授をしている。マーモットさんの次に本物を見たいと私が思う社会疫学分野でのスーパースターである。

会議室224という150人くらいしか入らないこじんまりした会場の一番前の席にイチロー・カワチが静かに座っていた。

若いころの長嶋茂雄に似ている。英語を流暢に操るところも(!!)、日本語が少し奇妙なところも長嶋風である。質問は日本語でされてもわかるが、答えは英語だと前から聞いていたのだが、日本に来ることが増えてずいぶん上手になったのか、講演では通訳をした琉球大の女性教官の翻訳の誤りをただちに指摘していた。

「そんなに上手にしゃべれるのだったら、最初から日本語でやって下さいよ!」とその女性教官が叫んだのが面白かった。

イチロー氏にも藤田保健衛生大の山中克郎氏にも感じたことだが、アメリカで教育を成功裏に受けた人は、なぜかとても愛想がいい。すべての会話にwelcomeという雰囲気が満ちている。努力して威厳を追っ払ってる感じ。もちろん、その方が圧倒的に好ましいが、どうしたらそうなれるのかは分らない。

「日本の講演ではいつも同じような話ばかりしているので、今日は気晴らしもかねて、社会疫学と政策の関連について話します」と最初に日本語で話して、あとは英語のお話だったが、最後の方で、冗談のように保健省の大臣が勧める「健康への10の助言」(禁煙、運動、野菜、果物、安全なセックスなどお決まりの健康習慣)を取り上げて、社会疫学側で似たようなものを作るとすれば、と言って

「1:貧困にならない 2:貧しい親を持たない 3:貧しい地域に住まない 4:失業しない  5:ハリケーンが来る地域に住んでいるのなら自動車を所有する」

というスライドを持ち出した。

「まぁ冗談だけど」

しかし、それは、私には大事なヒントだった。

お決まりの健康習慣の中に潜む社会経済的格差に着手して、誰もが可能な限りの健康習慣を実施できるように出来たら、どれくらい健康格差はなくなるのだろう。

思い切ってそれを質問してみた。

「生活習慣が健康に与える影響は全要因の3割くらいだとマーモットさんは言っているけど」

あとで考えると、この質問は若干混乱していた。生活習慣の影響が全部なくなるのと、生活習慣の格差が全部なくなるのとは、少し違う。必要条件として格差の影響をなくさなければ、生活習慣の完全な改善はないのは当然だが、格差はなくなっても、悪い生活習慣は均等に残るかもしれないからだ。十分条件ではないということである。生活習慣の違いを全部社会経済格差に還元できるかどうか―可能性は大きいと思えるが、はたしてそうかどうかはマーモットさんも断言していない。

イチロー・カワチも問題を受け取りかねて、「生活習慣の影響が全部なくなったらという話だったら、やっぱり3―4割は改善が望めると見込んでいいでしょう。」と答えた。マーモットさんの成績以上のものはハーバードにもないらしい。 

生活習慣が自体が健康の決定要因となっているのは見かけだけで、実際にはすべて社会経済格差によっているとすれば、生活習慣の中の格差による影響をなくしてしまえば、格差の健康への影響全体も3-4割減るという話にはなる。

(近藤君が後を引き取ってくれて、「会社員のメタボリック症候群において、生活習慣の影響を全部除いても、職場のストレスの影響で2.5倍の発症率という成績がある」と教えてくれた。しかし、これだけでは、生活習慣の健康要因としての大きさを相対的に見るという姿勢は確立できても、影響の大きさ自体は計算できない。ただし、メタボリック症候群の社会経済的状態による勾配があらかじめ求められているなら、計算可能になる。たとえば最も条件の良い層を1として、条件の悪い層が2.5なら、そのすべてはストレスによるわけで、生活習慣要因のあれこれもストレスと結びついて影響を発揮していると解釈できる)

なぜ、こんなことを聞いたかというと、臨床医が社会疫学にアプローチしていくのに、いきなり社会政策を論じるというのでは難しすぎるからだ。

当面、目の前の生活習慣の中にある社会経済格差をなくしていくことから始めるのがいい。それで最大4割の格差是正効果、あるいは健康改善効果を得ることができる。

それと同時並行で、社会疫学の知見に基づいた街づくりを考え、できることを企画―行事を行ったり、施設を作ったり―する。さらに医師の社会的影響力を利用していろんな政策の健康に与える影響について評論していくということになるだろうか。

ともかく、「イチロー・カワチに質問することはできた」、という大きな満足感で私は帰りの新幹線に乗った。

石川民医連の莇(あざみ)医師も途中で一緒になって、最近増えている若年性の2型糖尿病進行例の背景にある社会経済因子を明らかにする仕事を民医連全体でしようという話で盛り上がった。

金山駅まで見送ってくれた二男が、「10歳でニュージーランドかアメリカに住まわせてくれる親を持たないと、イチロー・カワチにはなれないよ」と私を恨むような発言をしていたが、それは聞こえないふりをした。

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