« WHO 健康の社会的決定要因委員会最終報告 エグゼクティブ・サマリー 仮訳#3 第2章 | トップページ | 健康政策を専門とするにはどうしたらよいのだろう »

2010年3月 3日 (水)

患者や看護師が傷つくということについて①京都府知事選 門祐輔予定候補の街頭宣伝を聴いて②荒れ狂う患者の発言を聞いて

①第39回総会民医連総会に出席した折のこと。

私と一緒にキューバ視察にいった京都第2民医連中央病院院長の門祐輔(もんゆうすけ)さんが4月投票の京都知事選に出馬するというので、街頭宣伝の際のビラまきを手伝った。
宣伝カーで多くの人が話したのだが、同病院の若い看護師さんも登場した。

そのとき、初めて気がついたのは、若い看護師さんが病棟の忙しさの中で患者さんに心にもない冷たい言葉を投げかけることがままあって、それは患者さんも傷つけるが、そのこと自体が看護師さん自身をも傷つけることになるということである。

患者さんに投げかけた言葉の冷たさを後で思いだして自己嫌悪が強くなり、看護師をやめたくなることもあると言って、宣伝カーの上で、その若い看護師さんは声を詰まらせた。

ああ、そういうことだったのか。
患者とのやり取りで自己嫌悪を感じて悩むのは、医師である私だけではなかったのかと医師になって満34年で初めて気づいた。

考えてみれば、この34年間、患者との関係は私の悩みの中心だった。もともと、対人恐怖気味のところがある私は表面的に無愛想を通すことで何とか診察室の自分を維持していたのだが、それを北海道民医連から応援に来てくれていた高橋医師から
「先生の診断能力にはいつも脱帽している、でもあえて言いたいことがある。
インテリジェンスの低い人にもう少し優しくなれないのか」
と詰問されたことがある

「敬語で話している初対面の医師に対して、ごく普通の敬語で話を返さないような態度の荒っぽい人は、心底怖いのだ」と答えたが、
「それはその人たちが敬語を使うような教育を受けていないからに過ぎないのだから、理解してあげるべきであって、先生の答えは理由にならない」と一蹴された。

そういう対人恐怖はまだ消えていないし、それ以外の理由としても、忙しい診察の中ではかけておくべき言葉をかけられなかった、問われたことをあえて無視するしかなかったということはまだ多い。
それを一晩じくじく考えるのが私の日常である。

問題は、そういうことが私のみ、あるいは一部の医師のみの問題だと思いこんでいたことである。

考えてみれば、患者さんに接するすべての職種、とりわけ看護師に同様の経験が集積されているのは当然である

おそらく、医師と看護師の間には深い溝がある。同僚の医師でさえ、隣の医師の悩みを詰問することしかしないのだから、別職種の看護師がその悩みを理解することはほとんどありえないのだろう。

同様に、患者さんの噂話で盛り上がって哄笑している看護師の横を通って歩くだけの私に、その一部の人の中にある深刻な悩みを察する機会はなかなか訪れないのである。


②ある日、初老の男性患者が病棟で荒れていた。
激しい言葉は看護師にとって言葉の暴力だっただろう。
おそらく理不尽であったろう内容は、少し離れていたところにいた私にはよく聞き取れなかったが、その抑揚に何か哀しいものを嗅ぎ取った。

それは初老の男性のもつ傷つきやすさを刺激された激昂特有の抑揚に思えた。

人それぞれに傷つきやすさ、英語でいえばvulnerabilityがある。

しかし、vulnerabilityは「攻撃誘発性」という意味もある。
すなわち、他人の傷つきやすいところを人は攻撃するように知らず知らずのうちに訓練されているのである。

社会共同性と真反対の傾向も併せ持つ人間の残酷さを考えさせる単語だといつも私は思っている。

若い医師や看護師はおそらく初老男性の傷つきやすい箇所を知らない。人生を積み上げてきたという誇りと、それがもはや過去のものになったという怖れ、また相当期間の努力にもかかわらず何も成し遂げられなかったという失意、それらをどうして彼が知ることがあるだろう。

しかし、若い彼らにも的確な攻撃性という本性は備わっている。むしろ若い彼らだからこそということがあるのかもしれない。
知らず知らずのうちに、言葉は的を射ているはずだ。

この人も荒れるだけ荒れてもとの孤独に戻るだろうと思いながら、私は直接は関わらないことにして自分の仕事に打ち込んだ

|

« WHO 健康の社会的決定要因委員会最終報告 エグゼクティブ・サマリー 仮訳#3 第2章 | トップページ | 健康政策を専門とするにはどうしたらよいのだろう »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 患者や看護師が傷つくということについて①京都府知事選 門祐輔予定候補の街頭宣伝を聴いて②荒れ狂う患者の発言を聞いて:

« WHO 健康の社会的決定要因委員会最終報告 エグゼクティブ・サマリー 仮訳#3 第2章 | トップページ | 健康政策を専門とするにはどうしたらよいのだろう »