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2010年2月22日 (月)

人間の環境の3層構造 再考

加藤周一さんが、人間を包む環境を3層の構造に分けて説明した話を以前書いた。

それは、人間を核にした、同心円状の構造で、最外層(殻)に自然、まん中の層(殻)に社会、最内層(殻)に神があるというものだった。神は、最晩年カソリックに入信した加藤さんらしい言い方で、私なりに言えば、「私の良心」を超える「倫理と理性」だと言い替えたい。

この構造について改めて考えてみたのは、事情があってじん肺という職業病の構造を考えなくてはならなかったからである。

珪酸結晶SiO2という自然に属するものが人間に影響を与えるとき、必ず社会という層を経由する。

粉じん作業に従事しなくては、珪酸という物質に触れることはないからである。そして社会の中で、粉じん作業に従事するということは、労働者の中でも下層に位置することでもある(24歳のエンゲルスが言うように、上層の労働者は工業に、下層の労働者は鉱山や農業に、という話が正しければのことである)。

貧困という概念をここに導入すれば、貧困であるがゆえに人は粉じん作業に従事する。

その上で、粉じん作業は、核の部分の人間の範囲でじん肺という病気を現象させる。

したがって、単なる物理的病因にすぎない珪酸も、人間に働きかけるとき、貧困という様相を必ず纏うことになる。

じん肺の原因は珪酸と言って済ますことができない。じん肺の原因は?と訊く試験があれば、珪酸と貧困だと答えれば及第点とすることができるだろう。

それだけだろうか?

ちょっと待て、最内層(殻)の「倫理と理性」の層は通らないのか?

もちろん通る。そのような格差に基づく労働はなくすべきだという倫理と、じん肺を予防する科学=理性の層(殻)を通して、珪酸は人間に働きかける。ここが最後の防衛ラインになってじん肺に罹患しない人も生まれてくる。

すべての病気を、この3層構造から捉えることが可能なはずである。3層構造間に、一方的でない、双方向の交渉があることも見逃せない。

自然という光線が人間に届くとき、社会の層がどのような屈折を光に生じるか、逆に人間の理性は社会や自然にどのように光を反射させるのかという研究を、私たちは「社会医学」という名前で呼んでいる。

ともあれ、加藤周一さんのいう3層構造は、私が何かを考えるときの実体的モデルとなったのである。

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