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2010年1月 5日 (火)

映画「そして、私たちは愛に帰る」2007

映画館では面白い作品はなさそうだったので、正月には上記のDVDを見た。

1973年生まれ、30歳代の若いトルコ系ドイツ人ファティーフ・アキンの監督の第2作目である。ドイツでドイツ文学を教えているトルコ人青年と、娘がトルコで殺されてトルコにやってきたドイツ人老婦人の交感の映画である。しみじみした悲しさがあふれてくる。

最後に長く写される黒海沿いの漁村と黒海が美しい。「戦艦ポチョムキン」も黒海沿いの町オデッサの話であるが、あの海は本物だったかどうかも分からないので、黒海の出てくる映画を初めてみた気がした。TVではドナウ川の河口の自然を扱ったドキュメンタリーでも見たはずではあったがよく覚えていない。湖だった地中海はある日一気に外海とつながったというのを最近の新聞で読んだが、その後どうしてここまで海が入り込んでいくことができたのだろうか。そういえばカスピ海が出てくる映画があっただろうか?

映画とは無関係な連想に私は支配されやすいので、決していい映画観賞者たりえない。

トルコについては今オルハン・パムクの長編小説 「雪」 和久井路子訳、藤原書店2006を半分まで読んでいるので、なんとなく親しみを持っている。それで上記の映画が格別面白かったのかもしれない。

オルハン・パムクは1952年生まれ、すなわち私と同い年なのである。少し違う点は2006年に彼がノーベル文学賞を受賞していることである。言わずもがなのわずか違いに過ぎないが。

もう一つトルコと言えば、戦前のマルクス主義運動の中で一世を風靡した福本イズムの福本和夫さんのファンで、私が山口大学を卒業しているということから、旧制山口高校(現山口大学)教授だった彼に直接教えてもらったはずだと思い込んでいるたいへん知的な友人が「柄谷行人が講演して、トルコでは大評判なのですよ」と酔って言ったことがなぜか印象に残っている。

なお、福本和夫がドイツのフランクフルト大学社会研究所(ということは、福本和夫はアドルノやハーバーマスと同じくフランクフルト学派の流れの中にいるのか?→*)留学を終えて旧制山口高校に着任したのは1924年で、1952年生まれの私がどこかで接点を持っているというのは、相当な妄想であることを、最後に付け加えておこう。

*鶴見俊輔「期待と回想」から

4.転向について  

  フランクフルト学派の創立者の中心に、ドイツ留学中の福本和夫(マルクス主義の理論家)がいたんです。清水多吉(思想家)が『評伝福本和夫』(思想の科学社)という本を出して明らかにしたんですが、フランクフルト大学の「社会研究所」というグループの名前も福本がつけた。

 
<質>福本和夫については『共同研究 転向』の中でも触れられていますね。いま福本についてコメントしなおすとしたら、どういうことになりますか。

 スターリン主義はスターリンだけに責めを負わせることはできない。「福本イズム」というのは福本和夫だけに責めを負わせることはできないんです。明治末から大正にかけてできあがった東京帝国大学を頂点とする日本の知識人の養成過程があって、それが福本がいったことを「これだけが正しい」と思わせる原因になった。フランクフルト学派でいえば、ベンヤミンもアドルノもスターリンの共産主義に対しては批判的だった。もし福本が日本共産党の重要人物になっていなかったら、そういう道をひらく可能性はあったでしょうね。私はいまだったらもう少し慎重に、福本自身のいいぶん、根拠をとらえるようにしたと思います。

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