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2009年11月16日 (月)

ソリッド・ファクトと熊本:第20回 労災職業病九州沖縄セミナー

11月15日は上記の集会の中の一分科会で「格差症候群」のミニ講義を頼まれたので、午前4時に起きて熊本に向かった。

宇部から1時間かけて新下関駅に車で行き、新下関駅5時35分発からJRをいくつか乗り継げば8時20分に熊本駅に着く。熊本駅は熊本の市街から離れているのでタクシーを使って行くと、開始10分前に、熊本県庁近くの会場に着くのである。

労働組合、民医連、弁護士をはじめとして1000人ぐらいは集会に参加しているのだろうか。

20年かけて、労災職業病を考える市民の集まりをこんな大きな企画を実行するまでに育て上げた、九州社会医学研究所の田村先生の努力に改めて脱帽する。私なんかは逆立ちしてもこんなことはできない。

それに私は逆立ち自体が苦手だ。

私が担当した分科会には、39歳の弁護士さんが助言者で付いていた。東大の経済を修士まで進んで、弁護士に転向した人らしい。湯浅 誠氏よりは1歳下だが、ごく近いところで研究活動をしていたようである。とても頼もしい。

考えてみれば、湯浅 誠氏にしろ、この弁護士さんにしろ、14日に宇部に講演に招いた紙屋高雪氏にしろ、いま39,40歳というところにずいぶん優れた人が多い気がする。友人によると、ロスト・ジェネレーションに属する人達で、不安定さをいつも抱えて、社会の周縁から社会を見る視点が自然に身についているからではないかとのことである。その意見に賛成する。

さて、私の話は、いつもの格差症候群論である。十分興味深く聴衆からは受けとられたが、それはマーモットさんやイチロー・カワチさんの突き止めた事実が衝撃的だからである。

①人々を収入別に5段階に分けて一定期間観察すると、その期間の死亡率は収入に反比例するような勾配をなす。最下層の人は最上層の人の3倍も死亡しやすい。

②収入が安定したイギリスの公務員社会で、地位を4段階に分けて観察してみても同じことが言える。最下層の人は最上層の人の4倍も死亡しやすい。死亡しやすい人はすでに死んでしまった退職後も、2倍の格差が残る。

③イギリス社会の職業を専門性の高いものから非正規労働まで6段階に分けると、1972年当時で、専門性が高い層の平均余命は72歳、非正規労働者は66歳とすでに6歳という大きい差があった。これがサッチャー時代の格差激化を経て、20年後に78歳と68歳という10歳の差がつくまで開く。時代が進んで平均余命はそれぞれ延びはしたのだが、最上層は6年延び、最下層は2年しか延びなかった。

サッチャー時代がなかったら、平均余命はもっと延び、日本に追いついたのかもしれない。

④2008年3月、ついにアメリカでは最貧層の平均余命が短くなり始めたことが確認された。

以上は、イギリスやアメリカら始まって世界を席巻した新自由主義が、先進国の国民にどういう影響を与えたかがはっきり分かる結果である。驚かない人はいないだろう。

なぜそういうことが生じうるのかを医学的に説明するのが私の役割である。それは結局、社会的に冷遇されているために脳が感じる慢性ストレスが、身体の代謝異常や免疫機能低下を介してさまざまな病気の発病を促進するからである。それを説明することは、私にとってやりがいを感じさせられる場面でもある。

分科会が終わって若い弁護士さんと、憲法25条と13条の話を少しする。13条の幸福追求権がなにより大切で、25条はそれに比べれば付随的だと考える人がいるという話をすると、まるで私がそう言っているかのように激昂される。だから、それは間違っていると私は考えているんだって、と何回か言ったが、憲法を少しでも勉強してほしいですね、と怒っているのである。

それもまあいいか、と思いながら、熊本名物(ボツリヌスはもう含まれていないはずの)辛子レンコンを買って、ものすごく眠い目をこすりながら宇部に帰った。

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