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2009年11月 6日 (金)

健診余聞

健診を引き受けるのは好きだ。

特に、「入門健診」と私たちが呼んでいる、零細業者が大工場の中の仕事を請け負い、その工場の門を潜るために要求されている粗末な健診には気合を入れている。

例えば、オートメーションで動いているような火力発電所。正職員は空気のきれいなコントロールセンターでの監視ばかりで、有害作業は一切ない。それはそれでストレスはあるのかもしれないが、発電所に出入りしている下請けの労働者に有害作業は集中している。

貯蔵している石炭が自然発火することもあるし、塗装のため登った発電所の高い煙突から転落することもある。

実は、煙突から転落して死亡した労働者が未治療の高血圧だったことから、下請け業者の「入門健診」施行が厳しくなったのである。ただし、中身は粗末で血圧測定と尿検査だけというに等しい場合がある。

そういうときほど、問診は丁寧にしないといけないと思っている。

そういう問診でこれまで聞いたこともないような職種の話に出会うと得をした気になる。

健診の時に聞いた面白い話を診察室のパソコンの中に蓄積し、患者の秘密にあたらない部分を病院内のLANに公開している。若い人たちに健診に興味を持ってほしいからである。

今日は、いつもの宇部市の病院とは違うS市の診療所で診察しているので、このブログのほうに書きとめておくことにした。

①40歳代、派遣労働者が新しい職場に行くための健診。何の仕事かは知らない。ともかく行く。

一通り診察が終わって、「相談がある」という。

昨夜から腹痛があって全く眠れなった。これまで、そういう腹痛の際には市販のガスター・テンを服薬したらよくなっていたのに、今回はぜんぜん効かない。どうしたらよいだろうか。もう一度腹部を触診しなおすと今度は「痛い」と顔を歪める。

胃内視鏡などの検査をしてみようかというと、健康保険もないし収入もないという。

最低限PPIというガスター・テンよりは強力な薬を処方したい。

こういう時は、健康保険外の診療の自由さがある。今回だけ実費に近い料金で薬を渡すことにした。仕事に就けて、健康保険証がもらえて、収入が入ったら内視鏡をする約束をした。

しかし、看護師さんが言うには、先生にはあのように約束したが、胃カメラなんか受ける余裕はきっとないよ、と言い残して帰ったとのこと。

さて、そういうときの対処法が自分の引き出しの中にあったかな?

②60歳代男性、住民健診。現役時代は何の仕事でしたか?

「飛行機の整備です」

それは珍しい。山口宇部空港で?

「いや、自衛隊の基地でね。」

近くに航空自衛隊の練習機用の飛行場がある、それか。じゃ、自衛隊員でしたか。

「いや、民間。富士重工ですよ。」

なるほど、自衛隊の飛行機の整備は富士重工が請け負っているわけですか。飛行機はもう作っていないのに。

「うん、民間に、民間にといってね。私も本当は自衛隊員だったのですよ」

じや、天下り?

「ははっ、いやいやの、天下り」

ところで、この前YS-11がオーバーランしてたではないですか。

「そうね、まだYS-11が飛んでいたとはね。私は現役の頃、YS-11の自衛隊への導入に関係したのですよ。有名な東大の木村先生の講義を聞いたりして」

もう国産飛行機は作らないのですかね。

「いや、計画が進んでいるみたいですよ、そういう話は時々入ってくる」

③60歳代男性、健診ではなくてインフルエンザの予防接種の希望。

地域の大病院で高血圧治療中と書いてある。

今年はインフルエンザワクチンの供給量が少ないので、かかりつけの病院があるなら、そちらのほうでしてもらうと助かるのですが。これは率直に、少しぶっきらぼうに言った。

「こっちのほうが安い」 ああそうですか。熱烈歓迎とはいかない。

「いやね、私は警備会社に再就職したのですよ」私が産業医をしているところだ。

「そして、ここで健診を受けたら、お腹の触診をしてくれた」

それはするだろう、どこでも。

「いや、絶対にしない。おざなりの診察ばかりだ。高血圧でかかっているあの大病院でも、医者はろくに聴診器を当ててくれない。それで、ここに変わろうかと思って、まず予防接種に来たというわけ」

そうですか、健診で腹部の触診をしませんか。

「しませんよ」

しかたないなぁ、ワクチン打ちましょう。でも今日は、お腹まで見ませんよ。

「当たり前よ」

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