« 恐慌のメカニズムと創造の三角・・・不破哲三「激動の世界はどこに向かうか 日中理論会談の報告」新日本出版社2009  | トップページ | 健診余聞 »

2009年11月 5日 (木)

松岡健一「医学とエンゲルス」大月書店、2009・・・ある没原稿から

(一)岡山民医連の松岡健一先生が今年になって「医学とエンゲルス」という大著を大月書店から出版された。

それを下さる人がいて、ぽつぽつと読んでいたら、ある日ふとウイルヒョウに関する記述があるのに気づいた。

ウイルヒョウは1821年に生まれたドイツの医師・政治家である。細胞病理学を確立する一方、進歩党という政党を創立してビスマルクと激しく対立した。しかし1871年以降は反動的になって1902年死亡した。そのせいかマルクス・エンゲルスからの評価は低い。その評価は正しいかというのが松岡先生の問題意識だった。

1848年、27歳のウイルヒョウは前年行なったドイツ・ポーランドの国境地帯のチフス大流行調査の報告書を書く。

<この地域に必要なことは、150万人の貧困者に薬を供給することでなく、完全な民主主義、すなわち教育と自由と繁栄を与えることである。 具体的には、ポーランド語を公用語として認めること、課税対象を貧困者から富裕者に移すことなどである>旨を断言した。

のちにウイルヒョウは「医療はすべて政治であり、政治とは大規模な医療にほかならない」という言葉を残している。

(二)このウイルヒョウについて他に誰か書いてないだろうかと探してみると、サポルスキーという人が2006年の日経サイエンスで「貧しい人はなぜ不健康なのか」というエッセーを書いていた。

「青年ウイルヒョウは, 1847年の腸チフスの大流行と1848年の革命の失敗の二つの経験から重大な2つの事実に気づいた。疾病の拡大は劣悪な生活環境と関係があるということ、そして権力を持つ者は無力な者たちを服従させるあらゆる手段を持っているということだ。そのことから、彼は『医師は本来、貧しい者たちの弁護士だ』という有名な言葉を残した」

それから、「米国では貧しい白人男性は,裕福な人々より約10年早く死亡するという」という話になる。格差(ステータス)症候群の話である。

ウイルヒョウの目は今も生きている。

(三)思えば、マーモットの「ステータス症候群」にも、ケニアのヒヒ社会のユニークな観察者としてのサポルスキーが登場していた。

彼がヒヒ社会においても群れの中の順位で健康状態が決まるということを報告したため、「ソリッド・ファクト」解明の中心人物マーモットは真剣に悩むことになった。

社会格差による健康障害は霊長類に不可避であり、それをなくすことは不可能事ではないのか。しかし、マーモットは、霊長類が社会階層を形成することは生得的だが、それが残酷な抑圧社会に進むのか、階層をなるべく緩やかにしようという傾向が出現するかは後天的なものだと気付く。階層勾配を緩やかにすることは健康を生み、それは努力すれば達成される。「みんなで状況を変えよう」と彼は呼びかけた。

(四)ウイルヒョウに戻れば、医療はすべて政治であり、政治とは大規模な医療にほかならない」と150年前の彼が見抜いたことは、21世紀極東の全日本民医連綱領改定にも遠く反響している。

|

« 恐慌のメカニズムと創造の三角・・・不破哲三「激動の世界はどこに向かうか 日中理論会談の報告」新日本出版社2009  | トップページ | 健診余聞 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/85349/46680365

この記事へのトラックバック一覧です: 松岡健一「医学とエンゲルス」大月書店、2009・・・ある没原稿から:

« 恐慌のメカニズムと創造の三角・・・不破哲三「激動の世界はどこに向かうか 日中理論会談の報告」新日本出版社2009  | トップページ | 健診余聞 »