笠原清志「社会主義と個人―ユーゴとポーランドから」集英社新書2009
岡山駅新幹線待合室構内の小さな書店に寄ると、必ず面白いものが見つかる。11月22日に買ったのは上記であるが、発行日も11月22日という新品だった。
著者は立教大学の副総長をしている人らしいが、よくは知らない。しかし、青年時代からユーゴスラビアのベオグラード大学に留学し、東欧情勢の専門家である。
この本は、そういう著者の直接的な交友の中から、社会主義を詐称した抑圧体制が崩壊する前後の東欧、とくにユーゴにおいてはその後の狂気的民族紛争を描写して、きわめてわかりやすい。面白いので仕事の合間に2日で読むことが出来た。
ユーゴとポーランドの現代史の入門書にもなるものである。私もようやく、セルビアとクロアチアの指導者の名前を覚えることが出来た。また、ポーランドを解放した「連帯」の実態を垣間見た気もした。
叙述の上で留意されているのは、ごく普通の人々がどんな風にその時代を生き抜いてきたかを具体的に示すことである。そして、「市民一人ひとりが被害者ではなく、場合によっては加害者として過去の体制に向き合うこと」が求められている現在が切実に理解されるように導かれている。
私が特に感銘を受けたのは、ポーランドの運動「連帯」が直接的な政治革命より共産党の政治権力行使を「統制する」という目標に意識的に踏み止まり、運動を社会の隅々まで広げ、次の時代を準備したということである。
私が属している非営利・協同の運動や協同組合運動も、権力濫用の統制者としての役割をなるべく長期間、時代が十分に熟すまで徹底的に果たすべきなのだろう。
ワレサはその「連帯」の方針から逸脱し、準備もなく政治権力を握り、独裁者となり、腐敗し自滅した。
しかし、「連帯」の本来の指導者の一人は、その後に旧共産党系勢力が復活して大統領選挙に勝利したことも、ポーランドの民主化の一定の完成だと考えていることが示される。
そういう東欧を巻き込んで、「今後、世界経済は長い混乱の時期を経ながら、金融市場での投機的利益を目ざす市場モデルから21世紀型の新しい社会・経済モデルへと転換していくことが求められている」という最後の部分には私もまったく異論がない。
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