保険医協会会報「主張」を書くという退屈な仕事
締め切りが来ていることを、事務局員のN君から知らされて、仕事の合間に保険医協会の月刊の会報「主張」を書いた。
どちらに転んでも無記名の個性を発揮できない文章である。それでも午前午後の予約表がいっぱいの外来をこなし、臨時の大腸内視鏡や病棟での中心静脈カテーテル挿入などの処置の間の短い時間で書き上げると結構疲れる。
「こんな無味乾燥なものなら事務局が書けばいいのに」と思うが、書いてみると細かい事実関係を詰める作業があって、それは勉強になるので、人に任せたことはない。
1年後にでも読み返すつもりで、以下に採録しておく。
「1月20日オバマ大統領が就任して約9カ月、そして9月16日鳩山政権が発足して約1カ月が経ちました。この間、世界政治も日本政治も、それまでなら何十年、何年とかかる変化をあっという間に成し遂げてしまいました。核廃絶、CO2削減、インド洋自衛艦派遣中止。もちろん、いずれも実行されたわけではありませんが、前進に向かう大きな途が開けました。
鳩山政権のもとでの変化は医療・社会保障分野も例外ではありません。障害者に応益負担を押し付けた障害者自立支援法の廃止が明言されています。この秋、自治体では障害程度区分審査委員会の研修会が予定されていますが、いったい何を研修しようとするのか他人事ながら心配になります。廃止された生活保護家庭の母子加算は年内に復活される見込みです。
しかし、問題は後期高齢者医療制度です。昨年2月には、当時の野党4党で衆議院に廃止法案を出し、民主党の総選挙マニフェストにも廃止が掲げられましたが、長妻厚労相は就任当初は廃止と発言したものの、10月3日になって即時廃止とはせず、新制度発足とともに廃止という方向に転換しました。
ことの本質を忘れてはなりません。
後期高齢者医療制度は、大半が収入の少ない年金生活者からなる75歳以上の人を、これまで所属していた医療保険制度から追い出して、他制度からの援助額を制度開始時のままずっと固定して増やさないということで始めたものです。そうすると高齢者が増えたり、薬や手術や検査の技術進歩を保険医療にとりいれたり、長期療養者が増えることがそのまま財源不足に直結し、高齢者自身の保険料引き上げ、さらには全員が平等に医療の進歩の恩恵に浴することをあきらめ自費診療を導入することが必然的になります。このため、制度そのものが「老人を閉じ込める檻」や「姥捨て山」のようだと多くの国民の憤激を買ったものです。その怒りの前に自民党政府は様々な臨時の負担軽減措置をとってごまかそうとしましたが、ごまかしきれなかったところに、今回の政権交代の第一の原因があったはずです。
もし後期高齢者医療制度をただちに廃止しないと様々な不都合が生まれます。来年4月には保険料見直しで、平均して単身世帯年1万円という値上げがやってきます。低所得者の保険料の軽減措置も期限切れになります。また老人保健から外れた70歳から74歳の人への暫定措置も来年3月には切れ、窓口負担が1割から2割に増えます。
加えて、この制度を管轄する「広域連合」は、独立した地方公共団体としてはきわめて不完全で、独自の措置を実行したり、住民からの請願に応じることもまず無理という存在です。自ら改善していくことが可能かどうかという意味では自治体の名に値しません。これを放置しておくことも大問題です。
さらに言えば、この制度の根拠法となっている高齢者医療確保法(2006年6月)こそが追及されなくてはなりません。悪名高い、医療費適正化計画(レセプトオンライン義務化と直結)、特定健診・特定保健指導、療養病棟の廃止・削減の強行は、すべてこの法律に由来しています。そもそも、この法律の中心となる後期高齢者医療制度が廃止されるのであれば、その根拠法自体が根源的に見直されなければならないのは当然です。
したがって、私たちは、後期高齢者医療制度をただちに廃止することの必要性を飽くまで主張しますし、百歩譲って若干の猶予時間をおくとすれば負担軽減を期限なく継続することを必須だとします。さらに介護型療養病棟廃止の撤回、レセプトオンライン義務化の撤回、特定健診・特定保健指導の中止をきっぱり行うことを求めます。
政権交代は、民主党が作り出したのではなく、小泉改革による際限ない生活圧迫を弾き返そうとする国民の力です。いまこそその力を集中しましょう。」
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