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2009年10月12日 (月)

医療安全診断@徳島民医連・・・「こんなことを繰り返していると医師免許証が紙くずになるぞ!」という教育について

10月10日(土曜)は特別早起きして徳島まで日帰りした。徳島滞在は4時間、移動時間が往復で9時間である。効率とは無縁の話だが、テーマ自体が病院の医療安全で、ある意味、効率とは対極にあるものだから仕方がないか。

徳島の民医連病院の医療安全を実地に検討するというこの企画に、参加した人は中四国の各県から約20人、現地がその2倍くらい。費用も相当かかるわけで、、同じお金を使えば、専門の業者に依頼して立派なレポートを作ってもらうこともできるだろう。しかし、それでは中四国の民医連全体のレベル向上にはつながらない。ドングリの背比べのような非専門家が集まって、ああでもない、こうでもないと言い合って、お互いが磨きあう。一人の一歩より、百人の一歩が大切、というところだろう。

私も熱心にこの企画に参加はしたのだが、そのうち、別のことを考え始めてしまった。

というのは、民医連の医師育てと医療活動が十分に関連・連携しあっていないのではないかということである。民医連に入ってくる新卒医師がだんだん減っている。その上、せっかく入っても長続きしなくなっている。極端な例になるかもしれないが、私のいる病院の内科をみてみると、50歳代の医師が4人いて、その下はいないという事態になっている。みんなベテランで技術的には安定しよく働いて、しかも給料が安いので経営には好都合だが、10年先は危ない。

なぜそんなことになってしまったのだろうか。その答えは置いておくにしても、当面の打開策は必要である。では、どんなことを考えているかというと、研修に総合診療の手法を取り入れるだとか、役割モデルになる先輩医師のありかたを探るだとか、国内留学の充実だとかである。

やはり、それではだめなのではないかというのが、私が徳島民医連の病院を見学しながら思ったことである。たとえば、こうして医療の安全問題に取り組んでいるということが十分には若い層に伝わっていない。医療の安全問題が、病院管理の問題や、安全管理者が学ぶ技法の問題としてとらえられて、終わっているのではないか。

安全の底にある理念をつかみだしてこなければいけないのだ。

一つには患者の人権問題である。安全な医療を受けることは患者の最も基本的な権利であり、患者自身も参加して改善させていくべき課題である。患者として感じた不安を心置きなく表明する(speak out「はっきり言おうよ」運動・・・JCAHO)ことが、安全を促進するものとして歓迎されるような関係が患者と医療機関の間には必要だし、医療機関側も安全がどんなに多額の費用を要するものか患者に説明し、制度上の改善がなされるよう協力を求め続けることが大切だ。

さらに、もう一つは医療の職場の民主主義という問題である。看護師が医師には意見を言えない、医師の中でも率直には話ができないという関係の中で、医療事故は生まれている。私たちはそれを「権威勾配が急峻なのは危険」と言っている。権威勾配をなるべくなだらかにし、患者のためにチームが心を合わせることができるようにしないといけない。

問題は、医師育ての上で、医療の安全がそういう理念から成り立っていることをしっかり位置付けて教えているかどうかだ。安全について、どのタイミングで何を教えればよいか、を考えなくてはならない。

医師は個人の技術の上で暮らしていくものと教え込まれている。何か失敗をして、先輩医師に胸倉を掴まれて「こんなことを繰り返していると医師免許証が紙くずになるぞ!もっとよく勉強しろ!」と脅かされた人はいくらでもいるだろう。胸倉を掴む先輩もそれでいっぱしの教育をしたと思っているだろう。しかし、「医療上の失敗は個人責任ではなくシステムの問題だから、一緒にそのシステムについて見直してみよう」と会議に招かれる若手の医師はまずいない。

システムの不良として自分や同僚の起こした事故を振り返り、患者の人権や職場の民主主義の問題としてそのシステムをとらえることがことができるような教育をすれば、そういう教育をしていることが伝われば、民医連に入って残る医師も増えるのではないか。

医師にとっての医療機関の魅力を、医師個人の技術の向上やその結果としてのステータスの上昇に置く限り、その医療機関は日本の医療を前進させる力は持てないだろう。せいぜい企業として成功するというところにとどまる。

医師にとっての医療機関の魅力は、やはり、全体としてどういう医療活動をし、地域に貢献しているかにあるのが本当だ。したがって、医師育ても、患者の人権、医療の安全、医療の倫理、組織の運営などを体系的にカリキュラムに組み込む必要がある。もちろん、研修1年目では早すぎるが、2年目後半では、これらの中のどれかを集中的に勉強してもらうことはできるのではないか。ともかく、それに成功すれば日本の医療全体がよくなるはずだ。

そういうことを考えながら、「お金がなくて当面改築は無理」と経営幹部がいう古い病院を見て回り、正直そうな職員の皆さんと会話した。

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