イチロー・カワチほか「不平等が健康を損なう」日本評論社、2004
遅まきながら手にした。マイケル・マーモット「ステータス症候群」を読む前に読んでおくべきだったと、後から考えた。
何が人々が健康であるかどうかを決定するのかを詳細に述べた本だが、同じ趣旨のマーモットさんよりわかりやすい。イチロー氏がマーモットさんより若いからなのか、イギリスの著作は晦渋に満ちていることを好むのに対して、アメリカの著作は簡潔を尊ぶからなのかどうかはわからない。
どこをとっても面白いが、第6章が特に面白い。
P107「心臓発作患者の追跡調査で」・・・ソーシャル・キャピタルの決定的重要性について述べた部分である。
「予後を左右する医学的要因を考慮しても、情緒的支援が得られるかどうかが生存を最も予測する因子であることが明らかになった(Berkmanほか 1992)。
心臓発作で入院した患者の中で、情緒的支援の資源を持たないと報告したものの約38%が入院中に死亡したが、それに対して二つないしそれ以上の支援を持つ者では入院死亡11.5%だった。
退院後もこの経過は変わらかった。
6ヵ月後の追跡調査では、少なくとも一人の支援者を持つ者の死亡率36%、2人ないしそれ以上の情緒的支援を情緒的支援者を持つ者は23.1%であったのに対して支援者を持たないものの死亡率は52.8%だった。」
このあたりは数字を暗記してもわるくないだろう。
何冊か社会疫学の入門書を読んだところでの、私の印象では、社会格差全体に伴う生き辛さの程度が5割、社会格差の一部である医療アクセスの利用しやすさが4割、出会った医師の技量が1割程度の割合で、人々の健康は決まるらしい。
医者はわずかな1割のコップの中に生きていて、だれが「神の手」に達したかどうかと騒いでいるわけである。
しかし、彼らは健康であるかどうかを決める本当の理由が自分のしらないところで広大に広がっているのに気づかない。あるいは、おぼろげに気づいても、つかみどころのない暗い様子に驚いて逃げ帰ってきているに違いない。
その暗さに必死で投光してきたのが、マーモットさんや、イチロー氏なのである。
全体の構造を把握して初めて、小さな領域に生きる人間の生き方も深められるというものである。
引き続き、学ばなくてはならないだろう。
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