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2009年2月26日 (木)

最低限のソーシャルキャピタル調査 その2

 その後も外来診療の合間に、家族構成と、救急車を呼ぶとき頼りにする人は誰か、通院手段は何か、何か社会参加しているのかという質問を続けて、一覧表を作り続けている。改めて聞くと、意外な話が多い。

というか、こういうことを聞かなければ、主治医としての自覚が生まれないのだとも思う。その例は下の①である。

 近くのI医院が閉院し、何人かの患者さんが処方の継続を求めて来院されている。こういう場合、初回は同一処方をお渡しして、特に何かを聞くということもないのだが、2回目には、少し病歴を聞く。

2回目の受診だった60歳代の女性に、同居家族の構成を聞くと、息子さんと2人暮らしだという。「息子さんは独身ですか」と聞くと、障害があるので、といわれる。職場の転落で頭部打撲して、しばらく意識がなく、体は動かせるようになったが、意思疎通が難しくなった。いまは週3回障害者施設に通っている。しかし、この子供さんの「労災手当てで生活が随分助かっている」。

実はI医院の身内の人で、I先生を頼ってY市から宇部に来たのだけど、I先生は高齢で引退してしまった。

自分がいざというとき、息子さんは救急車の手配ができるかと聞くと、それは無理とのこと。「そういう時は、確かに誰も頼る人がいない、質問されて初めて気付いた」。

「Y市にいた頃は、障害者の家族の会に参加していたが、宇部に来てからは、社会的参加がまったくない。障害者施設への子どもの送り迎えだけが外に出る生活。」

このあたりまで聞くと、ようやく、患者さんが身近になり、主治医として登録しておこうかという気になる。(そういう慢性疾患の主治医登録システムを病院内に作っているのである。医師が積極的に登録しないと、受診するたび違う医師が診察し、患者さんが戸惑うという結果になるのだが、登録患者はすでに過大で、何かあってその患者さんが入院するときに自動的に主治医になる、さらに仕事が忙しくなる、という結果も予想されるので、あまり新しい主治医登録はしたくないとい気持ちが自然に働いている)

また、聞いていると話が思わぬ展開になり、自分のことを振り返らざるをえないこともある。

下の②である。

② 60歳代のじん肺の男性。労作時の呼吸困難が強く、風邪でもひけば緊急事態になることが目に見えるような人。最近失業した息子さんと二人暮しだが、息子さんはいないことが多い。

「それでは、息苦しさがひどくなったときは不安ですね」
「そうですね。だけど、朝夕に、大分にいる娘と電話で話しているから
「え、毎日?」
「毎日」
「なんという濃密な親子関係ではないですか。娘さんはそんなにかわいいですか(ふっと笑ってしまう・・・失礼になったかな)」
「(憮然とした様子)・・・妻が膵臓癌で死んで以来の習慣です。」
「そうですか。(やっぱり笑ったのはまずかった!)奥さんがなくなられたのは何年前?」
「もう5年になります」
「(昨日、病棟で40歳代の母親を喪った中学生がディールームで限りなく号泣していたのを思い出す)それじゃあ、毎日電話するのも無理はないですね。・・・ところで電話代は誰が出すんです。」
「私です。私のほうからかけろといわれてまして。」
「娘さんもなかなか考えますね」 (・・・携帯なら家族割でタダなのかな)

患者さんが診察室を出て行ったあと、そういえば母親が急死した後、自分も毎日父親に電話しようかと思ったことを思い出した。
もちろん、それは実行できず、「便りがないのが無事の証拠」状態が続いている。
だから先日、東京での会議中に父親の方から私の無事を確かめる電話をかけてきたとき、「後にしてくれ」といえず、会議室を出て電話を続けざるをえなかった。
そのとき、あまりあわてていたものだから、いすに足を引っ掛けて転倒した。若い時なら考えられないくらい体がうまく動かず、抵抗しつつも、どん!と倒れてしまったのである。
転倒体験というものは、想像以上に自尊心を傷つけるもので、残りの会議の間中、なんとなく萎縮した気持ちですごした。

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