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2009年2月17日 (火)

キューバ医療機関見学のまとめ:専門医療の様子

民医連のキューバの医療視察から帰って1ヶ月になる。崩していた体調もほぼ回復したので、簡単な報告書を書いた。報告には視察団内の分担があって、私の担当は(あまり気に染まないが)専門医療の様子である。以下に、その簡単な報告を載せておく。

キューバの医療施設見学から帰って、努めてキューバやアメリカの医療報道を見るようにしているが、先日驚いたことがあった。 
フロリダの富豪が死んだ愛犬を忘れられず、1400万円をかけてクローンを作ってもらったというのだ
その富豪の周囲には貧困層が多く存在し公的健康保険制度が欠如していることに苦しんでいるだろうし、フロリダのすぐ南隣には9人家族が月2万円で暮らしているようなキューバがある。
高度な生命科学・医療技術が無駄遣いされているアメリカを象徴する話として私は理解した。
 


実は、私がキューバ視察に参加したのは、次の3点のような考えを胸に抱いていたからである。

①人々が健康であるかどうかは、その国の政策や制度がどれだけ公平であるかによる。公平がめざされていれば、なかでも医療における無差別平等のアクセスが重視されるだろうが、それだけにとどまらず、所得、教育、働き方、政治参加、地域のコミュニティ形成も熟慮されたものになっているはずだ。そういう総体が問題である。

②医療技術の水準は生産力によって基本的に決定される。それは健康水準に寄与するが、①に比べれば二次的な位置にある。アメリカのように医療技術水準が高くなっても、医療の市場化が進み、技術を平等に人々に届ける制度がなければ健康指標の改善は得られないからである。

③生産力とは別に、公平な医療制度自体が医療技術の高度化を生み出す推進力になるという可能性があるのではないか。それは高度な生産力と医療の市場化で到達する高度な技術水準とは別の形態をとるのではないか。

もちろん、テーマが大きすぎて、短期間の視察で確証が得られるはずのことではないのだが、それでも、キューバが①の実例としてふさわしいという印象は一層強まった。

日本は戦後から1980年くらいまでの医療制度改善の努力が実り世界でも最高水準の健康指標に到達したが、その後は社会格差の急な深刻化と医療費抑制政策のため国民健康の急速な悪化が予測されるだけに、その思いは強かった。

さて視察団から私に与えられたテーマはキューバの専門医療である。
具体的に専門医療の実態を見学することはできなかったので、上記の③と結び付けて考えてみたい。

 
キューバの医師総数は7.1万人だが、うち、3.3万人は家庭医である。したがって家庭医と専門医の比率はほぼ半々だと考えられる。

 家庭医の中には、ファミリードクター診療所(「コンスルトリオ」)に義務として配置されている全初期研修医が含まれるが、継続してファミリードクター診療所や、その上の総合診療所(ポリクリニコ)で家庭医として活動する医師は総合内科医としての専門性を追求し、研究会などもスタートしているようである。これも専門医の一つである。

 
普通にいう専門医については、政策的に全国に配置された213の総合病院が専門医の養成機関・大学院教育の場を兼ねており、その募集に初期研修を終えた医師が応募する。

 
国立病院の規模はかなり大きく、私達が見学したハバナ市のエンリケ・カブレラ総合教育病院は、31万人の人口を担当し、ベッド数475床、46専門科、医師数420人、専門研修医99人、教授が9人と紹介された。

 
専門医の数は、各総合病院での研修医募集の数を通じて容易にコントロールがなされるものと思える。
 その技術レベルは、おそらく国の生産力に対応するものであり、CT・MRIを設置した病院が林立する日本とは比較できるものでもなく、たとえば急性心筋梗塞おける冠動脈形成術(PCI)も日本のように標準治療として位置づけられるにはほど遠いところにあるという印象を持った。

 
それでもGDPに占める医療費は13.6%、国家予算における医療費は10%とヨーロッパ先進国なみであるので、GDPから想像するレベルよりかなり高いことが推測される。
 

 
専門医のあり方としては、上記③で考えたようにキューバならではの発展があるようだった。
 第一にポリクリニコという大型の総合診療所が病院とコンスルトリオの中間に設置され、そこに病院から絶えず専門医が出向いて診療するというスタイルである。エンリケ・カブレラ総合教育病院ではポリクリニコに71人の医師が定期的に出務している。
 
民医連のセンター病院から診療所に出向き「特診」を設置するのに似ているのだろう
 
ポリクリニコには長期入院施設がないので日帰り手術もあるようである。専門医需要のかなりの部分はここで応じられるようである。
 
 
専門医が病院の中に閉じこもらず、クリニックに出てアクセスをよくしているという意味では、日本での専門性の強い開業医と同等の意味を持つし、専門医がポリクリニコと病院の間を絶えず動いているという点では、日本の開業医による専門医療よりも優れていると思える。

 
それに関連するのだろうが、エンリケ・カブレラ総合教育病院では乳児死亡率も1000人に対し2.7と驚異的に低く、糖尿病や喘息による急性死亡も昨年は0だったという。


 
第二に眼科医療の格別の発展である。第三世界の貧困層に無料で眼科手術を提供する「オペラシオン・ミラグロ(奇跡の計画)」がチャベス大統領のベネズエラと共同で現在進められており、眼科医が大量に養成され、国内・国外で活動している。すでに31カ国100万人の患者を手術し、視力を回復したという。
 
私達は眼科センター病院であるラモンドパンドフェレル眼科病院を見学したが、日本の眼科医療水準を目指しているとの説明を受けた。

 
一つの小国の医療が世界の医療のなかで明確な専門医療のポジショニングを探り当てたよい実例であろうと思える。

 
このような国の政策としての専門医養成は、日本においては癌について進行しているのだが、より大規模・徹底的であるように思えた。

 
国がどういう政策を探り当てるかは、国民の健康に対する政府のアンテナに関わる。識字運動の中で、視力障害が多いことをいち早くキャッチしたべべズエラのチャベス政権とそれに即座に応じたキューバ政府の慧眼と、その後の治療に無料原則を貫いていることのなかに、優れた社会制度が専門医療技術を発展させている例の典型があるように思えた。
 

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