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2009年2月12日 (木)

浜 矩子「グローバル恐慌ー金融暴走時代の果てに」岩波新書2009、島本慈子「ルポ 労働と戦争ーこの国のいまと未来」岩波新書2008

どちらも、比較的新しい岩波新書。

出張の帰りに立ち寄った本屋さんでは、そのほかに、小林多喜二に関するもの、国民国家を扱ったもの、南京事件などの研究で有名な吉見氏による現代史など面白そうな岩波新書がたくさん並んでいたが、同時並行で読んでいる本が10冊以上あることを思い出して、この2冊だけにした。

しかし、このとき川本隆史という人によるロールズ・正義論の分かりやすい解説本や、ピンチョンの短編集も買ったし、帰ってきてからイチロー・カワチの健康科学の本を2冊注文したので、なんだか落ち着かない気分になっていった。中学・高校の頃は、まず10冊くらいの教科書があり、部活や個人的な読書も合わせれば20冊以上は軽く同時並行で読んだものだ、と思っているのだが、職業人になるととうていそんなことはできない、気分と頭が混乱するだけだというのを実感する。

さて、上記の本、二人とも名前が難しい。矩子は「のりこ」と読むが、漢字を探すには「く」を打ち込んで変換する。知っている言葉に「規矩」という言葉があるが、「きく」では出てこない。慈子も「やすこ」と簡単に読めるのだろうか。二人とも教養のある両親がいたのだろう。

ともあれ、あまり、読まなければならない本がたまるのはまずいので、一番新しい2冊をさっと読むことにする。浜さんは、週刊東洋経済2008.12.27-2009.1.3合併号に「世界版 『失われた10年』の始まり 日本はどこも『蟹工船』状態」という切れ味のよい標題の短文を書いていたので、この本を読もうと思ったのである。現状の総括がとても分かりやすく説明してあるので、私のような素人にはとても役立つ。

*アメリカの住宅金融公社ファニーメイとフレディを固有名詞とおもっていたが、頭文字から無理やりつけたあだ名だったとは知らなかった。(ただし、この2社に関わって、日本の農林中金や生命保険会社が莫大な欠損を出していることには触れられていない)

現在の状態を古典的大不況の要素が十分備わっている「内生的破綻」状態と位置づけるのはとても明快である。そのうえで1929年恐慌との違いについて丁寧に説明してあるが、一読した限り、大きな差異はないように思える。

となれば、やはり、1929年世界大恐慌と同様に過剰な供給は戦争という大消費でしか解消できないのではないかという懸念が頭をよぎるが、さすがにそんなことは書いていない。書いてあるのは「自分さえよければ」病、近隣窮乏化戦略に各国が陥っていくことがもっとも危険だという警告である。ちょうどそこを読んでいるとき、オバマ大統領が「バイ アメリカン条項」を発令して、アメリカの公共事業はアメリカの鉄鋼やセメントしか使えないことにするという方針を発表したことが伝えられた。まさに浜さんの予測どおりである。

その行き着く先はどこだろうか?

「カネとモノとの解離をなくす」通貨制度の展望として、一見突飛だがと言いつつも「地域通貨」が取り上げられている。柄谷行人が一時熱中していた話である。おや、ここにも似たような発想を持つ人がいると面白かった。

島本さんの本は前著「戦争で死ぬ、ということ」が面白かったので、読んでみた。私たちの仕事と戦争の関係が、優れた想像力と緻密な調査で論じられていて面白かった。じん肺の診療に関わって私と付き合いも深い三菱重工下関造船所の久村信政さんがインタビューされているのには驚いた。ベトナム戦争中、LST(米軍の上陸用舟艇)の修理を下関造船所で盛んにしていたという話。一見平和な国が深く戦争と関わっている。それでも憲法9条は決定的な事態への歯止めになっている。9条がなくなった日、どんな変化が私たちの社会や仕事に生じるのか、それは私たちの想像力が試される話であるが、想像力を働かす前に、島本さんたちの助けを借りて、現状をもっとよく知る必要がある。

現在の恐慌が私たちの仕事と戦争をどうひきつけようとするかも、考えて見たいことである。自衛隊が日本軍になる日、多くの非正規労働者が、日本軍のお世話をする戦争請負会社に雇用されるだろう。そういう日を期待するしかないところへ彼らを追い込む作戦はそれほど難しいものではない気がする。

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