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2009年1月 1日 (木)

山口二郎「若者のための政治マニュアル」講談社新書、2008・・・どんな欠点があろうと竹中平蔵に比べればよっぽど上等だ・・・しかし、岡山県出身なのに兵庫県八鹿事件を知らないのだろうか?

まったく根拠のない話だが、岡山駅新幹線待合室にある小さな本屋で買う本は結構面白いことが多い。アマルティア・センの講演集2冊もここで買ったのだった。「週刊東洋経済のバックナンバーはないか」と何の気なしに聞いたら「市内の○○書店にはそろっている」と正確な返事が返ってきたの好感が持てる。

今回は山口二郎「若者のための政治マニュアル」講談社新書を12月21日の出張の際に買って31日に読み終えた。(著者は岡山出身なのでご当地本ということにもなるだろう)

小さな本に長くかかったのは、その間の宿題が多かったせいである。本自体は、読みやすく、まずまず面白い本だと言えそうだ。

山口二郎氏については、私の評価はあいまいである。

1993年ごろ、「政権交代」万能論をマスコミと一緒になって叫んでいたとき感じた「軽薄な若手研究者だ」という印象が消えない。その後、反省したとのことではあるが。

社会保障政策をテーマに山口県保険医協会で講演をお願いしたこともある。講演開始までの30分間くらい二人で話をしたが、話がかみ合わず、講演が終わったら実家のある岡山に寄るということくらいしか覚えていない。これは私の記憶力が年齢に相当して低下しているからであるが、関心領域が一致しなかったのは確かである。

さて、上記の本は湯浅誠や雨宮処凛も登場して、いまの私には親しみやすい。

以前、池田香代子さんの講演で聞いた「良いTV番組を見たら、良かったと葉書を出すことがTVを良くする条件」ということも強調されていて、これは若者への適切なアドバイスになっている。

なにより新自由主義に対する批判や反貧困の態度がはっきりしているのがよい。

これは若者が読んで有益と思うので、私も読み終えると同時に長男に本を貸した。

というわけで、現在この本が手元にないままに記憶だけで書いているのだが、小泉の郵政民営化が米国の要請に応じた著しく反国益的なものであったことや、竹中平蔵のインサイダー取引のうわさが絶えないことについては言及が欲しかった。

(痴漢事件が報道された元早稲田大教授の植草氏は竹中や小泉の不正蓄財、場合によっては自殺教唆・殺人を曝露しようとしたところで事件を捏造されたいう話がネット上で飛び交っている。)

それが無いので、議論に鋭さがなくなっている。

また連合赤軍事件や中国の文革への評価はまずい。これらを理想を目指した運動だというわけにはいかない。著者がいくら事件当時幼い子供だったといってもそれはだめだろう。(文革については、そういうイメージが伝わってきた、とあいまいにしているが、きわめて早い時期に、これが毛沢東とその周辺の起こした醜悪な権力奪取行為だという指摘は日本国内でなされていたのである。)

また「革命」という言葉の使い方があまりに通俗的で、社会科学な正確さを欠く。このあたりは若者に勧められない。

*208ページの「第二レベルの権力」の項は読みにくいので、文章を変えたほうがいい。

**しかし、2009年1月1日夜のNHK討論番組での竹中平蔵との対決を見ると、著者の立場の上等さは際立つ。竹中のうそつき、ごまかし、居直りは、安部普三とならぶ日本の恥としか言いようがない。曲学阿金と呼びたい。国民への呼びかけとして「リアリストたれ」だって?竹中の目には、自分にも重い責任がある国民の貧困・格差はリアルなものとは見えず、大企業の利益減少だけが気にかかるリアルな現実なのだろう。大企業の国際競争力が大切だというのは、私たちにとっては竹中平蔵たちの妄想=反リアルに過ぎない。

***誉めたところで、注文をもう一つ。部落解放同盟の評価もどうかしている。隣の県で起こった陰惨な暴力事件・八鹿高校事件を知らない世代ではあるまい。事実の一つ一つを突き詰めて考えなくては、研究者とは言えないんでないかい?

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