吉田沙由里 「小さな国の大きな奇跡 キューバ人が心豊かに暮らす理由 」WAVE出版、2008・・・ラテンアメリカ医学校の話など
著者がどういう経歴の人なのか、本末尾の紹介ではよく分からないが、時間に比較的余裕があって、お金はあまりないだろう(私と比べてではなく、世間の有名人に比べての話)という人のキューバ旅行体験記。
キューバの医療、有機農業、教育、民宿や市場の様子、ペソと兌換ペソの2重経済、日系人のことなど要所要所がおさえられていて、興味深い。
ラテンアメリカやアフリカ、USAの貧困層のために設立されたラテンアメリカ医学校でのカリキュラムが初期2年までで、あとはキューバ全土にある21の医学校に分散していくなどは初めて聞いた話である。
人口1000万人の島に21の医科大学というのは、医科大学の集中している東京都よりも多い数だろう。1.3億人の日本に当てはめると180以上の医科大学数ということになり、日本の3倍近い。人口500万人の福岡と比べても3倍近い。
確か、人口1000人あたりの医師数は日本では2人、キューバでは6人を超えるから比例計算で大体一致する。それくらい多数の医師養成がキューバで行なわれて、かなりの質を担保しているのである。これだけ医師が多いと、それだけで国民の安心感が高くて、健康指標は軒並み優れた値となるはずだ。
*感冒で気軽に受診できるのであれば、そこで渡されるのが、西洋医学からみて効果もない代替薬であってもいいわけである。医師の世話になったという安心感が治癒に最も影響するはずだ。
**私も、可能なら、感冒の患者にPLなどの薬を投与した場合と「ゆず湯」を処方した時の治癒の質に違いがないことや、苦しいとき医者にかかれたか、かかれなかったかでその後がまったくちがうことを調べて証明したいと思う。
ともかく、そういう意味でキューバは「医療立国」の典型といってよいだろう。医師の給料は低いが、社会的に尊敬されているので、不満はないようだ。これは、有名な野球選手が、受け取るのは名誉だけで、生活は一般市民と変わらないというのに照応する。それでいいのだろう。
今年、生誕80年を迎えるゲバラの娘さん(この人も医師)の手記が付録についている。
とくに、ゲバラがこの人が4歳の時に出国したあと、一度だけキューバに変装・変名で帰り、名乗ることもできないままに娘さんに会うくだりの思い出は涙が出るものである。
全体、著者の人格によるのか、押し付けがましさのない、気持ちのよい読み物になっている。
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