「考える技術 臨床的思考を分析する」竹本 毅訳 日経BP社、2007
名古屋で医師3年目になった次男が持っているのを見て買ったスターンら「考える技術 臨床的思考を分析する」竹本 毅訳 日経BP社、2007を、半年がかりでようやく読み終えた。年を取るとこういうものを読み通すには時間がかかるのである。
とっつきにくい本だったのだが、途中で野口善令氏の「誰も教えてくれなかった診断学」医学書院、2008を読んで、若い人たちのする診断学の方法論(「診断推論」)をおおよそ理解したあとからは、530ページのどこをとっても面白くなった。卒後7年目の若手医師が訳したことを忘れるほどだった。
ところで、いま、私が興味を持っているのは「第一線医療現場にいる医師の総合性」ということである。
私の考えでは、それには、階層性とそれに応じた能力や方法論がある。
やや図式的すぎるものだが、現在私が考えていることを簡単に記録しておこう。
① 対疾患的レベル ⅰ)診断・・・もっとも可能性の高い疾患と、見逃してはならない疾患を組み合わせた体系的鑑別診断能力・・・「診断推論」
ⅱ)治療・・・ 2次的情報によるエビデンスの効率的利用能力(日本ではTIP誌、外国ではUPTODATEなど)・・・EBM
②対人的レベル・・・患者とのコミュニケーションをより深いところで可能にするために患者の主観的世界・物語に基礎を置いて診療する能力・・・NBM、医療の安全性と倫理性の貫徹能力
③対チーム的レベル・・・ チームで共有する仮説を生産する能力・・・・質的研究、民主的でフラットなチームを作る能力、教育能力
④対地域レベル・・・病院間、病院-診療所間、医療機関ー介護施設間などの医療連携を構想し、施設や法人の壁を超えて交流する能力、救急医療・在宅医療・末期医療(地域での緩和医療)という各論はここに位置づけられる。
⑤対社会レベル・・・社会経済的生活(労働、地域での生活)と健康の関係を明らかにし政策を作る能力・・・「格差症候群」(マーモット)の深化
①から⑤までの最後に挙げた言葉がキーワードである。
繰り返しになるが、診断推論、EBM、NBM、質的研究、安全、倫理、地域連携、格差症候群である。
こうやって単語を挙げ連ねてみると、なんだか流行を追っているだけのようだが、現時点では、「格差症候群」あたりを真ん中に置いた、一まとまりの総合的な医療技術が構想できないか、大げさに言えばそういう臨床のパラダイムシフトが見通せるのではないかという気がしている。
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