「スピヴァク みずからを語る」岩波書店,2008
「スピヴァク みずからを語る」岩波書店,2008は、比較的読みやすい本で2日間あれば読むことができた。読みやすいといったのは、この人の翻訳本の中では比較的に、という意味で、一読して容易に理解できる種類のものでないのはいつもの通り。
しかし、どうなのだろう、「一次健康管理」という訳は?(104ページ)おそらく「プライマリ・ヘルス・ケア」のことだろう。しかも、それは、スピヴァクが「私が全面的に支持する社会運動」とわざわざ言っているものなのである。
いま、日本中のどこでも、プライマリ・ヘルス・ケアをこんなふうに呼ばない。WHO関連の最重要用語でもある。ここでいうプライマリは、私が携わっているプライマリ・ケアとは違って、「一次的」というより「もっとも大切」「本質的」という意味に近い。
訳者の大池さん、しっかりしなさい。本来なら少し勉強して訳注でもつけるところではないのか?
とは、いいつつ、現在の新自由主義日本でスピヴァクを紹介するのは大変貴重な仕事である。
以下、日々に怪しくなっている私の記憶保存能力のために、印象に残ったことを、相互の脈絡無くメモしておく。
*119ページ スピヴァクは大都市コルカタの上層家庭で育ち、13歳でカミュやヴァージニア・ウルフを読みながら、貧しい村の学校出身者と同じ大学入学試験を受けたことについて、その不公平さは信じられないことだと言っている。この出自による経験こそが彼女の原体験なのだろう。
*124ページ 1対1の教育こそが世界を変える、どんなに時間がかかってもそうしなければならないと、ソ連崩壊後の古い共産主義者として彼女は考えている。なぜなら、相対する、搾取者の教育は子どもの早期から一歩一歩注意深く根気良くおこなわれるからである。それこそが資本主義の強さの源となっている。ならば、共産主義の側も、単に大衆として人々を動員するのでなく、搾取者の教育と同じように、不正と闘うものとしての教育を一歩一歩積み上げていくしかないのではないだろうか。それをしなかったから、ソ連は崩壊したのではないか。
*142ページ 「知の生産」はよくある「もう知っている、もうやった」のゲームではない。それは、制度を組み替え、知的な概念を作り直す、継続的な作業である。ここで、彼女は、私たちが言う質的研究、すなわち、継承と組み替えの継続作業のことを言っているように思える。
*158ページ 「私は空気に根を張っている」 これは私が革命に対して持つイメージに似ている。私にとって、革命は空気の流れのように目に見えず時代を満たしているものである。それが稲妻のように一瞬目に見える瞬間を逃してはならない。
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