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2008年11月27日 (木)

麻生発言「何も努力していない人の医療費をなぜ自分が払う」とマイケル・マーモット「ステータス症候群」日本評論社、2007

毎日新聞によると、麻生太郎首相は20日の経済財政諮問会議で、社会保障費の抑制を巡り「たらたら飲んで、食べて、何も健康法を実践しないで病気になったものの医療費を何で私が払うんだ」と発言していた。

「67歳、68歳になって同窓会に行くと、よぼよぼしている、医者にやたらにかかっている者がいる」「こちらの方がはるかに医療費がかかってない。毎朝歩いたり何かしているからである。私の方が税金は払っている」などとも言っている。

この発言は、科学的にも倫理的にも間違っている。

麻生氏は最も健康が保障される階層にいるので、他の人はたいてい彼より不健康であるのは当然である。毎朝歩いているから健康だというのは何も証拠がない。したがって、自分は努力して健康を保っているというのは証明できない。同じく、自分は努力して健康を保っているのに、他の下々のものは、努力しないため病気になっているということも証明できない。

また努力して健康を保っているから、たくさん税金を払わされているというのは、無関係なこと二つを並べたものである。

その上で、健康であろうと努力している自分がたくさん払っている税金が、努力せず病気になっている人の医療費に使われるのは許せないというのであれば、きわめて反社会的、反倫理的である。

ちょうど、いま私はマイケル・マーモット「ステータス症候群  社会格差という病」鏡森定信ほか訳、日本評論者、2007を読み始めたところである。面白くてならないのだが、マーモットさんはWHO欧州事務局が発表した「ソリッド ファクツ」研究の中心人物であり、その功績で、英国政府からサーの称号も受けた人である。

マーモットさんが言いたいのは「健康だから高い地位を得るのではなく、高い地位にいるから健康なのだ」ということである。逆に言えば、低い地位にいる人は、高い地位にいる人が健康であることが原因で、病気になっているのである。

麻生首相のような高位の人物が自らの健康を誇るときは、そのこと自体によって、より低い地位にいる人の不健康、病気を生んでいることを十分自覚しなければならないということである。

「朝の散歩など努めて運動しているので健康である」というときは、「高位にいて健康なので朝のお散歩がゆっくりできる、そのことが、別の人間の健康を損ねている」ことを知っていなければならないという訳なのである。

したがって、地位が高くて、収入が高くて、健康であるような人が、地位が低くて病気がちの人の医療費の面倒を見るのは、腹だたしいことでもなければ、善行でもなく、当然の償いなのである。これが倫理というものである。

別にマーモットさんが科学的に実証したそういう理屈を知っていなくても、健康は自己目的化して誇るためにあるのでなく、その健康を道具として、病気の人、不幸な人を助けるためにあるのである。「健康第一」というのは自分のために言う言葉でなく、他人を思いやって言う言葉なのである。

プロレスラーだって、肉体を鍛えるのは、鍛えた肉体そのものがほしいからではなく、それを使って観客を楽しませるためだろう。

「健康第一」を口癖にしている保守の利己主義爺が毎日ゴルフに行くのを自慢しながら病院に健診を受けに来て、「病気の奴のせいでわしの順番が遅い」とわめいているのにぶつかったような気がする首相の発言であった。

*しかし、麻生発言は、2006年の医療改革関連法と、それに基づく特定健診・特定保健指導の精神そのものだったのである。「保健婦が親切に指導してもメタボを改善できないようなだらしない奴のために自分達の保険料(後期高齢者医療への負担)が増える、そんなダメな奴が心筋梗塞になった時には医療保険が使えないようにして欲しい」という心情に経営者や労働者を追い込むのが、この法の精神だった。まさにそれを発言して、「なんで非難されるの?」といったところがきっと首相の真情だろう。小泉元首相だったら笑って見逃されることをがみがみと世間から言われて、かわいそうなことではある。

 


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