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2008年10月27日 (月)

伊藤周平さん「後期高齢者医療制度」講演会・消費税・「おくりびと」・「みとりびと」

山口県保険医協会は、間近に迫っていると思われた総選挙対策として、県内の主要な4市で伊藤周平鹿児島大学教授を講師とする「後期高齢者医療制度廃止に向けての学習会」を連続的に開いた。10月25日宇部市がその最終日になった。

率直に言って、この時期、このテーマの学習会は難しい。すでに制度の問題点は詳しく解明されてしまっているが、廃止法案の行方については国会の迷走のなかで予測が立ちにくいからである。面白い話なんてとうてい構成しようがない、と私には思える。

後期高齢者医療制度についての現状での私の理解の要旨は以下のようなところである。

75歳以上の人々を無理やり一般国民の輪から追い出して、内容劣悪な別制度に「囲い込」んだ。元来疾病リスクが高い人が多いので、制度自体の社会保険としての維持が困難なのは当然で、保険料がどこまで上がるか見当がつかない。これで怒りを感じない高齢者がいなかったらおかしい。

徳山高校出身で、東大を出た後は一時期官僚生活の経験もある伊藤教授の話も私の理解とほぼ同趣旨で明快だったが、残念ながら新鮮味には欠ける。全国の運動の生々しい経験も、大学教授の彼には直には届いていないので、あくまで理論的解明が前面に出るからである。

話が生きていたのは、官僚として閣僚の答弁を準備した経験だった。「(大臣はひどい老眼なので)字を大きく書くように」という指示が上から来るところなど、とても面白かった。

注文をつけるとすれば、もちろん抜かりなく触れられてはいたが、もう少し財源論を深めてほしかった。というのは、医療崩壊を激しく糾弾して、総医療費や社会保障費の拡大を叫んでいた人のかなりが消費税を財源にしようといい始めているからである。

これにどう反論するか。「税民投票」を書いた浦野先生にならって、消費税率の上昇が輸出企業にどれだけの巨大の利益をもたらすかを説明するのもいい。伊藤教授もその話には触れていた。しかし、聴衆の想像力を発揮してほしいのは、消費税率10%になったときの、高齢者・低所得労働者・生活保護所帯への打撃の甚大さである。

良心的な消費税財源論者はこれをどう考えるのだろう。貧困層を犠牲にした医療の改善、社会保障の改善なんてありえようがないではないか。文字通りの自家撞着である。

さて、もう一つ、考えさせられた話を書かないといけない。伊藤教授は、療養病棟削減で医療難民・介護難民が多く出るといわれているが、特に医療難民は、医療を奪われれば早期に死亡してしまうので、果たして難民として生き残ることができるのか?と話した。

私は、閉会の挨拶でその話を膨らませてみようと思った。

「伊藤先生の話で医療難民が実は出現しないというのが分かった」・・・・遠くで「そんなこといってませんよ」の声がきこえる。なんと伊藤教授が自分の話を曲解されたと焦ったのだった。・・・困ったなぁ、いいや、無視しよう、主催者の特権だ。

「映画『おくりびと』を見て違和感が強かったのは、納棺だけが美しくなされればすべてよしという風なところだ。私の周囲で最近盛んな終末期医療議論も、結局、人が亡くなる時点だけが強調され、周囲が納得して死のつじつまが合えばよいという風なところはないか?私たちの善意が捻じ曲げられて、私たち全員が『みとりびと』にされていくのではないか。そのことと、医療難民が静かに消えていくことと深くつながっているだろう」

さて、真面目な伊藤君が怒ってしまい、今後は私のいる保険医協会には協力しないといい始めるのが怖いのであるが・・・。

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