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2008年3月28日 (金)

堤 未果「 ルポ 貧困大国アメリカ」岩波新書、2008

チャルマーズ・ジョンソン「アメリカ帝国の悲劇」、エレン・メイクシンズ・ウッド「資本の帝国」と、少しずつアメリカ社会を分析する本を読んでいるが、今回は、最も軽量で短い本である。

その分わかりやすく、かつ生々しい。

サブプライムローン問題は、日本の新聞では株価の暴落や銀行の損害のことばかりがとりあげられているが、現地アメリカでは、詐欺同然に高利のローンを押し付けられて、家も未来も失う貧困者の一層の転落なのだということがよくわかる。

もっと驚いたのは傭兵会社の件。

これまでも、副大統領チェイニーがCEOだった石油サービス・建設の会社ハリバートンが、何層もの下請け会社を駆使して駐留米軍の日常生活をほとんどまかなう低賃金人材派遣をしていることは、チャルマーズ・ジョンソンの本で知っていた。(だから米軍兵士は、炊事兵が自分たちの食事を作ることもなく、兵舎の掃除もせず、訓練と戦闘と拷問に明け暮れることができるのだろう)

しかし、この本で紹介されていたのは、国務省と契約を結ぶ、戦闘業務自体を請け負う傭兵会社ブラックウォター社である。この会社の兵士は、民間人に分類されるため、その戦闘死は戦死に数えられず、犯罪は国際法も米国内の軍法も適用されない。極めて無権利で安上がりの兵士が監視の目をかいくぐって戦地に提供され、その供給源は、アメリカの貧困に追い詰められたワーキングプアなのである。

もちろん、連邦軍4軍の兵士、各州の州兵などの正規兵も、9.11後、ほとんど野放しになった個人情報収集、特に携帯電話の顧客情報提供を利用して、貧しい若者を標的とした強力な勧誘をすすめて集められている。

そのほか、初めて知ることがたくさん取り上げられていて、回りの人にも絶対薦めたくなる本だった。

偶然、今週号の週刊誌「アエラ」には、反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠さんへのロングインタビューが掲載されていた。また、ホームレスを支援するために、ホームレスの人が1冊売ると160円がその人の手元に残る雑誌「ビッグイシュー」という世界的な雑誌ネットワークがあることも知った。

それを見て、私が思うことは、これら多様に取り組まれている青年たち自身の自主的な貧困克服運動こそ、結果的には戦争にしか希望を持てなくなる青年を戦地に赴かせるのを防ぎ、日本と世界の平和を下支えしている活動なのだということである。

*昨年の3月にこのブログに、アマルティア・センの講演集の感想を私は書いている。その中で、この本の感想と響きあうものがったので採録しておく。自分の文章を自分で引用するなどというのは奇妙だが、最近忘れっぽくて、自分の古い文章がずいぶん刺激的であったりするのである。ただの老化なのだろうが。

・・・・したがって、市場経済の進行で金持ちになれるという経済的刺激(インセンティブ)の必要性がいまや国民と政府を絡め取る強迫観念になっているが、社会の本当の成功は、国民が直接的に政治に参加できる、民主的で豊かな社会を自らの手によって作ることができるという政治的刺激(インセンティブ)で達成されるのである。まともな政府なら、まずこの政治的インセンティブをこそ国民に差し出さなくてはならない。逆に、国民は政府が民主主義に向けての政治的インセンティブを持つようせまっていかなくてはならない。

日本のどこを取ってみても、どうすれば金持ちになれるかという怪しげな経済的インセンティブはあふれているが、自分たちの力で今の社会や生活を変えて少しでも暮らしやすくなることを展望させる政治的インセンティブは全く見当たらない。それどころか、政治に期待するな、自力で切り開け(できなければ自分の責任だ)という逆政治インセンティブが強力である。ここが変えどころである。・・・

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