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2008年1月28日 (月)

「花田少年史」:広島県呉市の蜜柑畑

久しぶりに広島県の島嶼部に住む叔父に電話した。もう80歳近くになって、急な傾斜の蜜柑山の世話もできなくなってきているのに、無理をして今年の収穫を送ってきてくれたからだ。蜜柑の玉の大きさがばらばらで、もう商品らしいものには仕立て上げることが無理のようだったのが気になっていたが、話のなかで「直腸がんの内視鏡的摘出をした」といったのには驚いた。

彼の末弟は兄弟の中でたったひとり大学を出てANAに勤めていたが、10年前に直腸がんで亡くなった。彼の姉である、僕の母も70歳と少しでおそらく心筋梗塞で急死した。一人の妹は喉頭がんで治療している。大体に短命で病気の多い一家なのである。

「内視鏡で全部除去できたようで、開腹手術は必要ないといわれた」とのことで少し安心する。

電話を切ると、冬の蜜柑山に吹く、雪の混じった風を思いだした。

僕が何かしら肉体労働をしたことがあるといえば、その山での蜜柑箱の運搬以外にない。叔父が3箱運ぶところをたった1箱背負って、ふもとの港に置いた蜜柑船に運ぶのである。(すでにそのころ富裕な農家はモノレールを山に這わせていたが、叔父はずっと人力でやってきた。)

山はいくつかあって、一部は石鎚山が見える愛媛県の島にあり、一部は本州側、竹原市忠海(ただのうみ)町にある。これらを伯父たちは小さな蜜柑船で行き来するのである。

本州側の山は「地方=じがた」と呼ばれていた。

その「地方 じがた」に忠海から行くには、忠海駅を出て、海沿いの山の中腹にある道を数キロ歩き、手堀りにちかい不気味な明かりのないトンネルをくぐっていかなければならない。トンネルを抜けると小規模な干拓地と、そのそばの、蜜柑船を着ける小さな港がずっと下のほうに見える。

その港まで降りて、今度は蜜柑山に登る細い坂道を行く。その先に電気も水道もない作業小屋があり、ここに数日間寝泊りして収穫作業に当たるのである。受験を控えた高校生にはまったく気の滅入る手伝いだった。

1ヶ月前のこと、ケーブルテレビの深夜映画を見ていて、とびあがるほど驚いた。

幽霊が見えるようになった少年が広島弁を駆使して奇想天外な活躍を見せる日本映画に、僕が歩いたそのトンネルが使われている。もちろん、若干の改装工事はされているが、間違いなくあのトンネルである。

映画の名前は「花田少年史」。ロケ地は広島県竹原市忠海町とあった。

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