漫画「夕凪の街 桜の国」
今年の8月6日、9日もあっという間に過ぎたが、今日になって、以前から読みたかった漫画 こうの史代「夕凪の街・桜の国」2004 双葉社をようやく読んだ。作者は1968年広島生まれの若い人である。
書店には平積みされているようだが、一人でも多くの人が手に取ればと思う作品である。
手に取った人の誰もが、読み終わるとき、その人なりに考え深く優しい謙虚な人間になっているだろう。
ヒロシマの重くて悲しい主題を正面から取りあげて臆するところのない傑作だが、一コマ一コマにこめられた情報がきわめて豊富で、漫画を読むことに慣れない者としては、漫画はこんなにも用意周到に描かれるものだろうかと驚かされるものでもあった。漫画の特性として、映画にくらべ画像の喚起力は若干弱いので、作者が考え抜いて表現したことをきちんと読み取るには、努力がやはり必要になってくる。そのあたりの情報は以下のページに詳しい。これを読まないと気づかなかったことも多かった。http://hisato.y32.net/yunagi.html
http://www1.odn.ne.jp/kamiya-ta/yuunagi.html
広島方言などは僕も得意とするところで、この作品がそれを上手に使っていると分かるが、世代の差のため誤読しそうになったところもある。
たとえば、後半の主人公に名づけられるあだ名「石川ゴエモン」は、私にとっては石川五右衛門で、歌舞伎に出てきて、寺の山門に上がって「絶景かな、絶景かな」という有名な台詞を言ったり釜茹でになったりする大泥棒なのだが、作者にとっては、「ルパン3世」に登場して、空飛ぶ飛行機なども切り落として「またつまらぬ物を切ってしまった」とつぶやく人物であり、もちろん全く違うイメージである。小学生が石川という苗字から、五右衛門風呂のゴエモンを連想するなんて変だ、と最初は思ったのだが、それはごく普通のことだったのである。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 雑誌 現代思想 6月号(2016.06.04)
- 内田 樹「街場のメディア論」光文社新書2010年(2016.05.11)
- 「『生存』の東北史 歴史から問う3・11」大月書店2013年(2016.05.10)
- デヴィッド・ハーヴェイ「『資本論』入門 第2巻・第3巻」作品社2016/3 序章(2016.05.04)
- 柄谷行人 「憲法の無意識」岩波新書2016/4/20(2016.05.02)
コメント