じん肺と非結核性抗酸菌症の関連は?
M重工S造船所の下請け労働者アスベスト検診を受けた人の中で、2人目にじん肺+続発性気管支炎と認定されて、最近、労災補償がようやく始まった人が、補償が始まるのと同時期に、右上肺野に空洞性病変を生じ、喀痰検査では多数の非結核性抗酸菌が検出された。 非結核性抗酸菌が感染しても無症状のことが多いが、この人の場合は確実に症状があったので、治療経験の多い近くの国立療養所病院に入院してもらった。
そのあと検討を要したのは、この非結核性抗酸菌症が、じん肺の合併症なのかどうかということである。 じん肺の合併症として労災補償対象になっているのは、続発性気管支炎、続発性結核、続発性気胸、続発性気管支拡張症、肺癌 である。文字通りとれば非結核性抗酸菌症は補償の対象になりようがない。 それでも、結核との鑑別が難しいし、治療も結核とほぼ同じだ、続発性結核と同等に扱うべきだという理屈が押し通せないだろうか? 私としては、こう考えたので、労働医学の同好の人たちでやっているメーリングリストに疑問を投げかけてみた。
北海道で、学究的にやっている人からは、わりとそっけなく、だめだろう、とのこと。
しかし、宮城の大先輩は「五分五分だ」と。こういう意見をもらうと、何か行動を始めるよう命令されているようで、しかもあまり成算がないようで、かえって気が重くなるなぁ。
別の考え方もあるといって北陸の先生が資料を送ってくれた。
それは、O労災病院の人たちの発表で、続発性気管支炎の経過のなかに非結核性抗酸菌症を含んでしまうというもの。 続発性気管支炎の経過の一部なのだから、当然労災補償の対象になる。 こっちのほうがすっきりしている。 これで労働基準監督署と交渉してみるかという気になった。
そこで、より一層の理論武装のために、日本結核病学会の「肺非結核性抗酸菌症診断に関する見解」を調べて読むことにした。 その参考文献の項目を眺めていると、下出久雄、村田嘉彦、草島健二、大石不二雄というどこかで聞いたことのある名前が並んでいるのに気付いた。東京民医連の呼吸器グループの人たちだ。 それは10数年前になくなった後輩の吉野邦雄君の師匠、先輩、同僚の名前である。
彼らに導かれて、吉野君も非定型抗酸菌についてのたくさんの論文を書いたが、もし生きていれば、ここに彼の名前が当然並んでいたのだろう。
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