55歳の当直
私は今いる病院の中では最年長医師だから、月に2,3回程度の当直をするたびに、高年齢当直の院内記録を更新していることになる。いってみれば、試合に出場すれば必ず国内新記録を出す選手のようなものである。
柳沢厚生労働大臣は、民主党の枝野議員の質問に答えて、産婦人科医が年々減少しているのは少子化のせいと主張して(2月7日衆議院)世間の失笑をかっている。そういう需要ー供給関係での変動なら誰がわざわざ質問するだろうか。
それをはるかに超えて、産婦人科医が病院を離れているのである。これがさらに新たな少子化傾向の促進因子になるということもあって社会問題化しているわけである。
さて、問題は産科医だけではない。内科医も危ない。
私自身を例にとっても、幸い、昨夜の当直は救急車は1台だけ、あとはインフルエンザやノロウイルス感染の患者さんをぼちぼち診るという比較的楽なものだったが、それでも、仮眠3時間前後で連続勤務の今朝は全身にだるさがしみわたっている。
午前中の予定業務として、胃内視鏡を5件ほど実施したが(これは胃内視鏡経験数 1万5千例以上という私にとって「忙しく仕事をした」といえるようなレベルではないとはいえ)検査と検査の手待ち時間に眠ってしまった。
当直あけの今日は、まだ当直からの解放感ですこしハイになっているのでまだいいのだが、明日からの数日が辛い。
特に一日何十人もの人を相手に数分間の面接を繰り返していく外来診察が続くので、週の途中から患者さんへの興味が擦り切れる。
とくに、私はじん肺という比較的特殊な分野も担当しているので(一応消化器専門医と称しているが実態は遠い)、隣の県から片道数時間かかって来てくれる人も毎回10人前後いる。その人たちにもわずか数分しか診察時間が割り当てられない申し訳なさが常にある。
このように後ろめたいと、つい先回りをして、患者さんが苦情を言う前にこちらが不機嫌になっておいてやれという自己防衛的姿勢が生まれ、ぶっきらぼうな態度をとりたくなくてもそうなってしまう。(「予防的逆ギレ」とでも呼ぼうか。)
こうして悪循環が生まれるし、どこかの時点で笑顔や会話を使って悪循環を断ちきる余裕は出てこない。
このような外来診療による疲労は、こちらの不全感が深いので、一日が終わった時には仕事をやめてしまいたいという気持ちが絶えず掻き立てられる。
おそらく、全国の中小病院の内科医の実態はこうである。危機的なのは産科医だけではない。
医療崩壊の危機の深さはまだまだ知られていない。
柳沢氏に大臣を辞めてもらうのは当りまえとしても、柳沢氏を国民の平均レベルと見たうえでの世論対策が必要なのである。
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